アーティスト×こども

お知恵拝借 先生編

先生編

【第3回】アーティストがやってきた!~説得をどうする?~

糸井 登
立命館小学校 教諭

掲載日:2012年05月06日

 前号では、アーティストを学校に招く際に困ったこととして、謝礼等の経費をどのようにしていったかを紹介しました。

 今回は、もう一つの困ったこと。職場の先生方にどのように説明し、説得したかについて紹介したいと思います。


 ワークショップという言葉が使われるようになって久しいですが、学校現場ではまだまだ認知されていない用語です。

 教師というのは「教えたい人達」なのであり、「仕切りたい人達」なのです。ですから、ワークショップというものが、参加者の活動に委ね、活動することによって、「教えるのではなく、引き出すのだ」という感覚が、今ひとつ理解できないのです。


 私が、アートによるワークショップを学校の中に取り入れ始めた時は、ずっと自分の学年でのみ実施していました。なぜかというと、成果という点でいうと、説明しにくかったのです。

 例えば、音楽家を招いたワークショップを行ったとします。先生方の求めるのは「子ども達は、どんなことを教えてもらって、どんなことができるようになったのか」ということなのです。

 しかし、音楽家によるワークショップで、子ども達は音楽がうまくなったりしません。そもそも、そんなことに意味を求めているのではないと考えています。子ども達は、音楽の本来の意味である(と思う)活動することによって「音を楽しむ」ことができるのです。

 そんな意味で、衝撃的だったのは、音楽家によるワークショップを受けた子どもの感想の中に「ものすごく楽しかった。ぼくも大きくなったら音楽家になりたいです」と書かれたものあったことです。私が一年間授業したとしても、こんな感想を書く子は出ないでしょう。


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 さて、ワークショップを繰り返す中で、いち早く子ども達の変化に気づき、その素晴らしさを感じていただけたのは、保護者の方々でした。

 保護者の方々とお話をする中で、出てきた言葉は、

「先生、妹のクラスや弟のクラスでもやっていただけないでしょうか?」というものでした。 この言葉を皮切りに、私は、他の学年や、学校全体で取り組むワークショップに取り組み始めたのです。


 ここでは、その中の一つ。運動会で取り組んだダンスワークショップについて紹介したいと思います。

 その当時、私が勤務していた小学校では、運動会で高学年は5.6年合同で組体操に取り組み披露することになっていました。

私は、5年生の担任だったのですが、6年生の先生から、

「糸井さん、ダンサーとか知ってるんでしょ。何かそういった人に来ていただいて、みんなで踊るみたいなことできないかなあ?」

という意見が出されたのです。

「はあ、いいんですか?やっていいなら、ぜひ、やらせて下さい。」

と返事をし、私が高学年のダンスを任されることになったのです。


 まず、誰に来ていただくかが、問題でした。100名を超す子ども達を相手のワークショップです。しかも、限られた回数の中でダンスを仕上げ、運動場というただっ広い空間での発表となるのです。しかも運動会というのは、ほぼ学校の全保護者が見に来られる場です。


 この取り組みは、「NPO法人・芸術家と子どもたち」代表の堤康彦さんに相談、協力していただきながら、プランを練りました。そして、京都在住のダンスユニット「砂連尾理+寺田みさこ」に来ていただくことが決定しました。


 しかし、ここで大きな問題が生じました。先生方にプランの概略を説明していた時です。

「えっ、振付を教えてもらうんじゃないの?子ども達が振りを考えるって、そんなことできるの?やっぱり、見映えも良くないとねえ。それとさあ、コンテンポラリーダンスって何?あの、こう、テレビなんかで踊ってるようなやつじゃないわけ?」

私は腹が立つのを抑えつつ、作戦を立てることにしました。

結論としては、「口でいくら言っても理解してもらえないだろう」というものでした。


 そこで、翌日、先生方に、こう言いました。

「とりあえず、お試しということで、一回、ダンサーの方に来ていただきますので、やってみましょうよ。やってみて、これではねえ・・・ということでしたら、やめたらいいんじゃないでしょうか。」


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 さて、ワークショップ当日。先生方にも体操服に着替えていただき、参加してもらいました。実は、これも大事なことです。ワークショップの良さというものは、参加し、体験しないとわからないものなのです。傍観者では決して、その良さは分からないものなのです。


 ワークショップは、二人組での体ほぐしにじっくりと時間をかけ、最後に小グループごとに考えた作品を発表するというものでした。時間は2時間です。


 その日の放課後、先生方と打ち合わせを行いました。

「いやあ、楽しかった。しかも、この子の感想見て!こう書いてあるの。こんなに友達を協力して何かをやったのは初めてだって・・・・。」

ひとしきり、子ども達の感想を交流した後、私は聞きました。

「どうですか?」

「いや、子ども達が、こんな教育的に素晴らしい感想を書いているんだもの、反対する理由はないよ。やりましょう!」

 こうして、無事、運動会に向けての取り組みを始めることにしたのです。


 ここで、もし、私が、無理やりワークショップを進めていたらどうでしょう。子ども達は、同じように楽しんだでしょう。でも、先生方はきっと傍観者となってしまい、その良さを感じていただけなかったのでは、と思うのです。


 冒頭に書いたように、学校現場ではワークショップという言葉は使われていても、授業などで使われることはまだまだ少なく、体験している教師も少ないというのが現状なのです。まず、体験してもらいながら広めていくというのがベターな方法だと思うのです。


 さて、この運動会でのダンスの取り組み。どうなったと思います?私は教師になって30年になりますが、子ども達の演技が終わった後、保護者から「アンコール」の大きなコールをいただいたのは、後にも先にも、この時一回限りです。それほど、保護者の心を揺さぶるものだったのでしょう。


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 多くの学校で、いろんなワークショップが展開されることを願ってやみません。

糸井 登
立命館小学校 教諭

京都府の公立小学校教員としてアーティストを教室に招いた授業を総合的な学習の時間が始まる以前から実施。その実践が、新聞、TV等にも多数取り上げられる。2010年度から私立・立命館小学校に籍を移す。教育研究会「明日の教室」代表。「NPO法人・子どもとアーティストの出会い」理事。単著『社会科の基礎・基本ワークシート 小学校5年』(学事出版)、編著に『シリーズ 明日の教室1~5』(ぎょうせい)、監修に『DVD・小学校におけるコミュニケーション活動シリーズ』(ジャパンライム)がある。

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