アーティスト×こども

お知恵拝借 コーディネーター編

コーディネーター編

【第4回】アーティストと子どもをつなぐコーディネーター
〜小学校でのワークショップ型授業:コーディネートの実際(3)〜

堤 康彦
NPO法人芸術家と子どもたち

掲載日:2012年05月14日

7.ワークショップ(授業)の実施

いよいよ、授業本番。この日までに、先生とアーティスト、双方にまめに連絡を取って、事務局で準備すべきものや先生に用意しておいてほしいもの、子どもたちの服装(ネームシール等)の依頼、集合時間など、細々したことを確認したうえで当日を迎えます。また、当NPOではメルマガ等によりボランティアを募集して、主に当日の記録等を手伝ってくれる人を探し、連絡調整します。

授業の進行は、基本的にはアーティストがする場合が多いわけですが、先生の役まわりも大変重要です。アーティストと先生との役割分担を大まかでも良いので事前に確認しておくと良いでしょう。子どもたちと一緒に先生が率先して身体を動かしたり、アーティストが提示する各ワークを、初めに先生が恥ずかしがらずに面白がってやってもらえると、子どもたちの活動もきっと活き活きとしてくることでしょう。また、なかなか授業に参加できない子どもに対して、寄り添うような形で先生にフォローしてもらえると、アーティストは大変助かります。
例えば、アーティストに対する遠慮からか、アーティストのお手並み拝見ということか、ずっと腕組みをして静かに見ている先生もいれば、逆に、アーティストの子どもたちへの説明を遮るようにしてどんどん介入してくる先生もいます。事前の打合せのときには、その先生が子どもの前でどんな態度をとるタイプの先生なのか、なかなか予測するのは難しいものです。当日の授業の進行を見ながら、場合によっては、コーディネーターがアーティストに代わって、先生に対して「○○な感じで子どもをフォローしていただければ助かります」みたいなことをそっと耳打ちすることも必要なケースもあります。

また、意外に忘れがちなのが、授業の皮切りをどうするか、の確認です。先生のリードのもと、挨拶、その後、先生からアーティストを軽く紹介して、アーティストに進行役を渡す、という場合が多いですが、この冒頭でギクシャクしないように直前でも良いので先生にその旨確認しておくと良いでしょう。もし、アーティストの登場を子どもたちに印象づける何か、例えば、冒頭にアーティストによる、ダンスデモンストレーションや音楽演奏などがある場合には、アーティスト、先生双方とよく段取りを打ち合わせて、効果的な出会いを演出することが必要です。

 さて、言うまでもなく、授業進行中、コーディネーターはアーティストを様々な形でサポートすることが最も大切な役割の一つです。アーティストが困っていることはないか、いまやっていることの次のワークで必要になりそうなことはないか、コーディネーターが中に入って対応したほうが良いような子どもはいないか、授業の時間配分は大丈夫か、など、コーディネーターは細心の注意のもと、授業の様子を見守ります。瞬時に判断する力、行動すべきか待つべきかを決断する力、先を読む力、などがコーディネーターに求められます。そして、場合によっては、授業中であっても、タイミングを見計らって、アーティストに対して、「こうしたほうが良いのではないか」とか、「あちらのグループの子どもを見てほしい」とか、アドバイスや意見を進言することも必要となります。

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 もうひとつ、授業中、コーディネーターにとって最も重要な仕事は、子どもたちをよく観察することです。子どもたちがいま何を感じ、この授業時間に彼らにどのような変化が生じてきているのか、このワークショップが彼らの内面にどんな影響を与えているのか、子ども同士の関係性にどんな変化が見られるか、などを彼らの言動や表情、目の輝きなどから読みとっていくことが大切です。クラス全体の雰囲気を見ることも大切ですが、より大切なのは、個々の子どもを丁寧に見ていくこと。特に、見過ごしがちな目立たない子どもこそ、微かな変化を汲み取っていきたいものです。

 当NPOでは、授業の記録を、筆記・写真・ビデオによって残しています。ワークショップは、舞台公演と同じように、その場限りで無くなってしまうもの。アーティストが懸命に実践してくれた貴重なワークショップを記録として残しておきたい。そして、子どもたちの様子やワークショップの内容がどうだったのか、を後日振り返る際に、貴重なデータとして活用します。ボランティアの協力を得ながら、可能な限り記録を取っておきたいものです。ただし、子ども(及びアーティスト)のプライバシーや肖像権、個人情報の扱いに関しては、細心の注意を払い、決して外部に漏れることがないように、あるいは、何かに使用する際には必ず学校の許可を得るように、データの管理をしっかりすることが必要となります。

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8.ふりかえり

 授業終了後、アーティストと先生とのふりかえりをします。あらかじめ、そのような時間が取れるかどうか、先生、アーティスト双方に確認しておくと良いと思います。昼休みの時間、放課後の時間などを見つけて、なんとか時間を取ってもらうようにしましょう。
 そこでは、今日の授業がどうだったか、子どもたちの様子はどうだったか、良かったところ・悪かったところなどを、コーディネーターも含め、ざっくばらんに話し合えると良いでしょう。特に、子どもたちの様子は、見る人・立場によって、同じ授業を振り返っても、違う視点で見えてくることが良くあります。先生には、普段の学校生活における子どもの様子と比較することが可能なので、アーティストやコーディネーターでは気が付かないような子どもの変化を教えてくれることが多くあり参考になります。
そして、連続する取り組みの場合は、次回の授業の計画と対策を相談することになります。たぶん、先生にとって、事前の打合せのときにはイメージできなかった、アーティストのワークショップも、一度授業を体験して、きっといろいろな意見や考え方を持ったはずです。それらを伺うことで、共同で一緒に授業を実施している意識が高まるのではないかと思います。いずれにしろ、アーティスト、先生、そしてコーディネーターの全員が当事者として、建設的な意見を述べ合えるような場にすることが大切です。

9.運営財源

 最後に、ASIASのような事業を継続して、かつ一定の規模で実施していくための財源について書きます。
 これまで見てきたとおり、ASIASのような、アーティストと先生との協働性に重きを置いた取り組みは、言いかえれば、手づくり感覚の創造的なワークショップの実践は、その実施にあたって、コーディネート業務が多岐にわたり、事務局の高い専門性が必要となります。簡単に言えば、コーディネートに手間がかかり、かつノウハウや経験が必要、ということです。
 ワークショップ(授業)自体の予算は、大掛かりな造形ワークショップか何かでない限り、アーティストの謝金が主になるわけで、舞台公演や展覧会などを企画するのに比べれば、ずっと少ない予算で実施できます。ただ、活動を継続的に実施するためには、専門的な専従コーディネーターを配置、育成することが必要になり、事務局人件費が相応に必要となるわけです。
 これら人件費も含めた、活動資金をどのように捻出するか。当然ながら、学校にそのすべてを求めるのは現時点では現実的ではありません。将来的に、文科省や各自治体が教育予算として、芸術家のような専門的な能力を持つ外部講師による教育活動に対して、十分な予算配分をするようになれば理想的かもしれません。でも、校舎の耐震補強工事には巨額な予算が付いても、教職員定数の増加などソフトにはなかなか予算が付かない教育行政の現実があるなか、すぐにはそれは難しいでしょう。
 当NPOのASIASは、当初、民間企業の社会貢献活動の一環として活動支援を受ける形で、企業協賛金を集めてスタートしました*1。その後、実績を重ねるうちに、いくつかの自治体が活動意義を認めてくれて、予算を付けてくれるようになってきています*2。ただし、ほとんどは、自治体の文化振興部門が芸術振興の観点から予算を付ける形で、教育委員会が教育予算として予算化している事例はわずかです。そして、当NPOでは今年度から、文科省の支援制度*3を利用するケースが加わりました。
つまり、この10年余りの間に、ASIASは、民間企業→自治体→国、というような流れで、財源を確保する幅が広がってきた、と見ることもできます。
このような活動を社会的にだれがコストを負担(分担)していくのが良いのか、今後も引き続き検討しつつ、制度づくりのようなことにもNPOやコーディネーターは積極的に関わっていくことが必要になると思います。

注釈


*1 これまでASIASを協賛して頂いた企業…アサヒビール、トヨタ自動車、日産自動車、日本電気、松下電器産業、花王、ソニー、ミナほか
*2 ASIASにおける自治体等との協働…東京都、豊島区、港区、横浜市ほか
*3 文部科学省「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験事業」(文化庁「次代を担う子どもの文化芸術体験事業」のメニュー)

堤 康彦
NPO法人芸術家と子どもたち

1965年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。87~97年、東京ガス㈱に勤務。その間に超高層ビルの建設運営業務に携わり、そこのホールやギャラリーで「パークタワー・アートプログラム」として、音楽やダンスの舞台公演や美術展覧会を数多くプロデュース。若手振付家が新作を競演する企画「ネクストダンスフェスティバル」は、97年度のメセナ大賞普及賞を受賞。その後、芸術普及NPO「アーツフォーラム・ジャパン」や大阪府立大型児童館「ビッグバン」の勤務を経て、99年秋からエイジアス(ASIAS:Artist’s Studio In A School)を企画構想、00年7月からスタートさせる。活動の拡大に伴い、01年7月「特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち」を設立、代表を務める。03年3月、エイジアスを中心とする団体の活動が認められ、「アサヒビール芸術賞」を受賞。04年8月からは、東京都豊島区の廃校となった中学校(にしすがも創造舎)に拠点を移し、区との協働のもと、地域向けプロジェクト「ACTION!」を始動。学校教育と地域(まち)という2つのフィールドで子どもに関わる事業を展開している。著書に、「子どもたちの想像力を育む アート教育の思想と実践」(共著/佐藤学・今井康雄編/東京大学出版会)、「子どもたちのコミュニケーションを育てる」(共著/秋田喜代美編/教育開発研究所・教職研修増刊)。

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