アーティスト×こども

お知恵拝借 アーティスト編

アーティスト編

【第4回】ダンスから遠い人たちとともに

伊藤キム
コンテンポラリーダンサー

掲載日:2012年06月27日

ダンスから遠い人たちとともに

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*広島市立本川小学校でのワークショップ
広島市アステールプラザ企画アウトリーチ(2011年)

ダンスのアウトリーチは、教育現場だけでなく職場や地域社会へと広がりつつあります。09年以降、私はフェスティバル/トーキョーや北九州芸術劇場のアウトリーチプログラムに招かれ、中高年男性を中心としたカフェイベント「おやじカフェ」を実施したり、一般企業でのワークショップなどを行ってきました。いずれも、普段ダンスに接することのない人たちとの作業ですが、これは私にとって大きな糧となっています。
 私の周りには、ダンサー・振付家・俳優・舞台プロデューサー・舞台スタッフ・ダンスや俳優の講師といった人たちがいて、劇場に足を運ぶ観客もダンスを観るのに慣れている人が中心です。
 そういう環境にいるからこそ、プロのダンサーではない人たちとの作業はとても新鮮で刺激的です。

地域との関わり、国との関わり

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*広島市立本川小学校でのワークショップ
広島市アステールプラザ企画アウトリーチ(2011年)

なかでも子供とふれ合うことは、教師や親など周りの大人たちと関わることにもなります。それは、「地域と関わる」ことにつながり、さらにいえば日本の将来をのあり方にも関係してきます。その地域のために、この国のために伊藤キムは何ができるのか?何をしなければならないのか? 非常に大きな責任を感じながら、その入口ともいえる学校で、子供たちに接しています。これが私のアウトリーチでの問題意識です。

それぞれの問題意識

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*広島市立本川小学校でのワークショップ
広島市アステールプラザ企画アウトリーチ(2011年)

では、受け入れる学校側、間を取り持つ会館・自治体・NPOには、どのような問題意識があるのでしょうか? それをここで私がわざわざ書き連ねる必要もないと思いますが、そういう問題意識が希薄なまま、「○○学校にはこんな人が来たらしいから是非うちにも」とか「××会館もやってるからうちも」などと流れに乗っているだけだとしたら、ワークショップを提供する側としては物足りなさを感じます。「うちの生徒の△△なところをもっと伸ばしたいが、具体的な方法が分からない」とか「うちの会館が地域により認知されるためにも、学校と創造的なつながりを持ちたい」など、それぞれの「切実な問題意識」が私たちアーティストを突き動かす力になる、ということは申し上げておかねばなりません。
 取りあえず学校にアーティストを呼ぶだけ呼んで、「学校側は邪魔しないように、アーティストにお任せすれば何かいいことをやってくれるだろう」という消極的な態度・考えだけでは、私には何も響いてきません。
 足りないものは何か? 何が必要なのか? そういうことを学校やコーディネーターから具体的に「切実な問題意識」として提示していただいてこそ、私たちアーティストは「それに応えられるアイデアはこれだ!」という具合に返せるわけです。そこで初めて、関わる人たちそれぞれが責任を果たす建設的協同が可能なのだと考えます。

アーティストはナマハゲだ!

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*福岡県立小倉工業高校でのワークショップ
北九州芸術劇場 企画製作『アーティスト往来プログラム』(2011年)

 もうひとつ、私の問題意識についてお話しします。
 私たち人間は、日常という安定した空間に暮らすことでちゃんとした生活を送ることができます。でもそれが常態化して空気のように当たり前になり、長く続くと「馴れ合い」が生まれてきます。新鮮な食べ物もほっておけば腐るのと同じで、すべてのモノ、コトには必ず「惰性」が働くようになります。
 学校という場所も、日常にまみれるうちに生き生きとした新鮮さを失い、単にシステムを維持するだけの守りの姿勢に入るのが常です。
 そこで必要とされるのが、外からの大きな刺激です。
 まるで晴れ物に触るかのように、子供たちは必要以上に大事に大事に守られ、その結果心の奥ふかくまでたどり着けなくなっている今の教育にとって、アーティストはナマハゲのように、荒々しく子供を叱咤し刺激するような存在として機能できるのではないでしょうか。
 もちろんそれは子供たちだけでなく、教員を含めた「学校」という閉鎖的な社会そのものへの刺激となるはずです。
 未知のものに触れることは、その多くが暴力的に行われるものです。それでこそ、強烈な体験・印象として心の奥深くに残るのです。新たな成長は、そこから始まるのです。

*****  
   
 1年前の東日本大震災は私たちに多くのものをもたらしました。いつもは通っているはずの電気が止まる、商店の棚が品薄になる、原発の怖さをあらためて思い知る、、、
今回の震災で、被災地だけではなく日本全体が日常をグラグラと大きく揺るがされる事態となっています。
 しかし同時に、こういう予期しない災難が起こって初めて、あるいはあらためて、気づくことがたくさんあります。
 震災と私たちの日常との関係は、アーティストと学校の関係に似ている。私はそう思います。もちろん、アーティストが学校を破壊する、脅かすということではありません。
 平穏無事な「日常」というものに、ある特殊なモノが入り込むことで、これまで見えなかったこと、気づいていたけど敢えて避けてきたことなどが見えてくることがある。
 アーティストというのは、ナマハゲのような、誤解を恐れずにいえば地震と同じような存在なんだな、というのが私の実感です。それは必ずしも日常・もしくは平和を「壊す」ということではなく、日常を揺さぶってそこにいる人たちを刺激し、新たな視点を提示する存在、だといえます。

アーティストには特権と使命がある

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*北九州市立鞘ヶ谷小学校でのダンスジャック
北九州芸術劇場 企画製作『アーティスト往来プログラム』(2011年)

 私たちアーティストには「自分の信念に従って作品を創る」、もっと簡単にいえば「やりたいことをやりたいようにやる」という特権があります。それはある意味、社会によって許された特権です。
 しかしその一方で、その特権を何らかの形で社会に還元するという責任・使命を帯びている、と私は思っています。
 もちろん、身を切るような創作そのものがその役割を果たしている場合もあるでしょう。しかし、それは受け止め方や人によっては実用的ではありません。より確実により広汎に渡ってアーティストが使命を果たす方法のひとつとして、教育現場でのアウトリーチはきわめて有効に機能する手段だと考えます。

*****

 今後、教育現場でのアウトリーチはより活発に行われていくことでしょう。しかし、どんなに多くのアーティストが学校を訪れても、上記したような「切実な問題意識」をすべての関係者が持ち合わせない限り、やはりそれは単なるシステムと化してしまうだろう、ということを肝に命じておかねばなりません。

 私の話は、今回で終了です。最後に、これまでに私が関わってきたアウトリーチの担当者の方々の報告を付記して、この原稿を終わります。
 長々と書き連ねてきましたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。



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*広島市立本川小学校でのワークショップ
広島市アステールプラザ企画アウトリーチ(2011年)

森 未祈(横浜市民ギャラリーあざみ野 事業担当)
 (一部抜粋)ダンスジャックは、本物のアーティストの表現が、学校に行って生徒たちに直に触れ合う、しかもそれが決められた鑑賞の時間ではなくて、生徒が思い思いに関わることができる時間であることに価値があります。  〜中略〜
先生でも両親でもない大人、しかも自分の表現方法を持っていて、生き方を貫いている大人に出会うことがとても大切なことだと私は思っています。その意味で、学校にアーティストが出かけていくことはとても重要なことですし、学校や社会に息苦しさを感じている子がいるとしたら、それを打破してくれるような力もアーティストは持っていると思います。


高木慶子(港北高等学校 教諭)
近年、日本は文化的・経済的に大きく変化の時を迎えており、多文化に対しての理解も今まで以上に求められている。21世紀のグローバル化は、私たちに異文化理解に対しても前向きな姿勢を持ち、生涯関心を持ち続け、世界の人々との共生を目指し、互いに尊敬し理解し合えることが必要だとしている。そのような社会情勢、特に情報化社会の中で、生徒達に求められるのは知識の暗記よりも「得た情報をどのように使うか」という技術の習得である。
今回の「ダンスジャック2008」は、生徒達の「想像力」を刺激し、パフォーマンスに好奇心が刺激されたという声が多かった。また、「ダンス批評講座」では目の前で展開される情報(パフォーマンス)から受けたイメージを、「言葉にする」という作業を通して、ひとりひとりの創造性が喚起され、活性化された内なる批判的な思考力を高め養うレッスンの場となったことは、予想以上に素晴らしい成果であったと思う。こうした力を内在する生徒達にとって、新しい自分に気付く一助となることを願ってやまない。


北九州芸術劇場 宮崎麻子
 北九州芸術劇場では、子どもの可能性に光を当てることを目指し、教育現場でのアウトリーチを推進しております。私自身、子どものころにアーティストの考え方に触れたことで、人生の選択肢が広がった経験があり、子どもの成長にはアーティストの多様な価値観との出会いが欠かせないのではないかという思いがあります。
 今年度「アーティスト往来プログラム」という舞台芸術の普及事業の枠組の中で、伊藤キムさんほか3組のアーティストにアウトリーチを委託しました。キムさんはその中で、ダンスジャックとダンスワークショップの2本立てでお願いし、鞘ヶ谷小学校、常磐高校、小倉工業高校の3つの学校でのアウトリーチが実現しました。どの学校でも事前打ち合わせの中で学校の要望をお伺いし、キムさんと協議の上で、内容を決定しました。
 そのうち鞘ヶ谷小学校の3年生では「実感を伴う学習」を推進されており、座学だけではなく実験や見学など子どもたちが自分の目や耳で確かめて学ぶことを大切にされていました。キムさんがアウトリーチを行うこととなった時期に3年生の理科では「風とゴムのはたらき」に取り組んでおり、担任の先生からは「身体表現を通して、子どもたちに風の力を感じてもらい、目に見えないエネルギーの存在を知る機会にしたい」という希望が出されました。そこでワークショップ「体をおもちゃのようにして遊んでみよう」では風の動きを題材に展開し、新聞紙を使って体で遊びながら風を感じるワークショップが行われました。2人1組になって片方が新聞紙を揺らし、それを相手がマネをする、新聞紙を体一面にのせて走ると新聞紙がくっつく...。今度は新聞紙なしで、さっきやったことをイメージしてやってみるなど。
 子どもたちからは「体を思いきり動かして楽しかった」「風がみえた」などの感想が寄せられました。
 今回は、担任の先生が身体表現に可能性を感じていらしてアウトリーチ受入れに応募された経緯があり、打合せ等もスムーズに進んでいきました。
しかし、まだまだ北九州芸術劇場がアーティストを小学校などに派遣していることは知られていません。私たちとしてもアーティストと子どもが出会うと何が起きるのか、アーティストが何をするのか説明し、ご理解いただくよりよい資料を持っておく必要性を感じました。


百田彩乃(北九州芸術劇場 アーティスト往来プログラム インターン)
 ダンスジャック中に小学生が発した言葉。「バケモノがきたーっ!」
この言葉は忘れられません。未知なるものと出会う怖さが、一瞬で興味や興奮に変わる。出会う事のないものと出会い、新しい事に気づく。キムさんを見た小学生の興奮は私も感じた。言葉で説明するのではなく、こんなにもシンプルに、そして相手にど真ん中に届くことにとても感動しました。
 教室を走って出ていくキムさんの後ろ姿は、最高にかっこよかった。


木村有希(北九州芸術劇場 アーティスト往来プログラム インターン)
故郷、北九州にて生まれて初めて出会った不思議なオーラを放つ伊藤キムさんと共にワークショップ、ダンスジャックを体験させていただきました。
あっという間に心を引き込まれ、いつもの日常が日常でなくなりました。
日常ってなんだ?!
キムさん一人が降り立っただけで...
水面に水が一滴落ち、
波紋が広がっていくようにキムさんの世界が広がっていく。
嵐のように過ぎ去ったひと時を振り返って、ほっとするような、さびしいような、変な気持ち。
この「変な気持ち」は、なかなか言葉に出来ないけれど、もう一回...と思ってしまう。
人には日常と非日常の世界がどちらも必要で、
たまに「ちょっと怖かったり、ちょっとありえない事を経験したり、驚いたりして」
内側の自分と会話したり、気づいたり、修正したり...。
キムさんの放つ世界から帰還した後のみんなの顔は、赤ちゃんのような素直で素敵なお顔。
そうだ!「素直さ」を取り戻した!!ということが一番印象に残っています。
大人は特に、キムさんのような方に荒治療してもらって、普段着ている
鎧を脱いで「こんなの着ていたのか」と気づくことも必要かな。
...と思います。


小笠原萌(北九州芸術劇場 アーティスト往来プログラム インターン)
 小学校でダンスジャックを拝見した時、子供たちの恐怖と喜びが伝染して私も不思議な興奮を味わいました。駆け回る足音と響く歓声。どの子の顔も生命が爆発したようにぴかぴか輝いていました。突然現れた謎の存在から得体の知れないエネルギーを全身で受け取るという体験は、子供たちにいい意味でショックを与えたのではないでしょうか。



岡本忠久 広島市アステールプラザ
 小学生といえば、常識にとらわれている大人と違い、柔軟性にとんだ思考、感受性を持っていると思います。常識からは秩序が生まれる。非常に大事なことですが、それだけでは個性を生かす事はなかなか出来ません。
 常識をちゃんと認識した上でさらに一歩踏み込んだ思考が何気なく出来てこそ、個性・自主性を伸ばし、芸術的な要素が生まれてくると思います。
 柔軟性のある子どもの時期に、日常の学校生活の中に突如現れる伊藤キムさんのダンスという非日常を体験する事はこの点を伸ばす重要な事だと思います。
 キムさんが学校に出向いてきて一緒に体を動かし、ダンスというものについて教えるという非日常で、キムさんの自分たちで考える力を引き出すといった手法が子ども達にはとても新鮮な体験であり、こういった体験をもとに個性豊かな大人になって欲しいと思います。

注釈


参考資料
横浜市民ギャラリーあざみ野『ダンスジャックツアー2008記録』
主催:アートフォーラムあざみ野 (横浜市民ギャラリーあざみ野・男女共同参画センター横浜北)

この原稿作成のためご協力いただいたみなさん
森未祈(横浜市民ギャラリーあざみ野)
宮崎麻子(北九州芸術劇場)
百田彩乃(北九州芸術劇場インターン)
木村有希(北九州芸術劇場インターン)
小笠原萌(北九州芸術劇場インターン)
岡本忠久(広島市アステールプラザ)
(敬称略)

伊藤キム
コンテンポラリーダンサー

PHOTO:山口遊

http://kimitoh.com/


振付家・ダンサー。1987年、舞踏家・古川あんずに師事。
90年ソロ活動を開始。95年ダンスカンパニー「伊藤キム+輝く未来」を結成。96年『生きたまま死んでいるヒトは死んだまま生きているのか?』でフランス・バニョレ国際振付賞 を受賞。01年『Close the door, open your mouth』および『激しい庭』で、第 一回朝日舞台芸術賞寺山修司賞を受賞。05年「愛地球博」の前夜祭パレードで総 合演出をつとめる。同年、白井剛氏とのデュオ『禁色』(原作・三島由紀夫)を 発表。また劇場作品だけでなく、パブリックスペースの階段を使った『階段主 義』や、学校や美術館などを使った作品も多い。作品では、根源的なテ-マとし て「日常の中の非日常性」を、風刺と独特のユ-モアを交えて表現している。05 年から06年にかけ、バックパックを背負って半年間の世界一周の旅に出る。07年 春より「伊藤キム+輝く未来」から「輝く未来」にカンパニー名称を変え、新た な形態で再始動した。08年横浜文化賞文化・芸術奨励賞受賞。
現在、京都造形芸術大学准教授。

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