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【第10回】ホスピタルアート~命の現場でアートする意味~

高橋雅子(たかはし まさこ)
アーティスト・アートプロデューサー/NPO Wonder Art Production・Hospital Art Lab・ARTS for HOPE代表

掲載日:2014年03月01日

「神様、どうか母を助けてください!」
旅行中に心筋梗塞で倒れ、意識不明で運ばれた山形の病院で、母に付き添いながら苦悩の時を過ごしていた。生死の境を彷徨う母にとにかく助かってほしい!その後はおそらく介護が必要だろう。父の世話はどうする?海外に暮らす兄一家になんと言おう?置いてきた仕事も気になる。あっ!猫もいた!...。重い問題にひとり対峙する病室の空間は冷たく、拒絶感を感じた。勤務する美術館の絵1点でもこの壁にあればどんなに救われるだろう?もし母が助かったら、病院に色と温かさを運ぶことがしたい!と強烈に思った。病院は体だけじゃなくて、心も救われる場所であってほしいから。

この思いに向けて具体的に動き出したのは独立した15年前。病院の理解を得ることに苦労し、10年前にようやくホスピタルアートの実働が始まった。

最初は病院の壁やプレイルームに、入院中の子どもたちと色を塗ったり絵を描いたりして空間に色をはこぶことから始まった。子どもたちだけでなく、医師や職員も作業に没頭。空間が色彩で華やぐと、みんなの表情が活き活きと変化した。作業中、患児も保護者も医師も看護師も、立場を超えてフラットな人間関係になることも新たな発見だった。それは、アートを媒体にきわめて自然にボーダレスとなったユニバーサルデザインの空間であった。
http://wonderartproduction.com/hospitalartlab/06.html

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「ハートフルプロジェクト」埼玉県済生会栗橋病院(2003年10月)

2~3年もすると病院での活動は全国規模に広がった。病院にいる子どもたちにアートで遊べるオリジナルのクリスマスカードや、可愛くラッピングしたクリスマスプレゼントを届けたり、ケロポンズやノッポさんの工作パフォーマンスを行ったり・・・。ノッポさんの登場では、ドクターが恥ずかしそうに握手を求めたり、難病の子を差し出し撫でてもらおうとする母親もいたり、病院とは思えないほどはしゃぎ、にぎやかなイベントになった。


http://wonderartproduction.com/hospitalartlab/07.html

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「ホスピタルドリームプロジェクト」兵庫県立こども病院(2008年12月)


頻繁に病院を訪れるようになって気づいたことがある。それは、病院の子どもたちが、自分で選んだり作ったりする能動的な作業にとても飢えているということだった。重度の子であればあるほど、身の回りのことはすべて他者に委ねて身を任せるしかない。選択の余地なくすべて受身なのだ。そんな生活で子どもたちが感じる不甲斐なさやストレスはどれほどのものだろう?そのことに気づいてから、子どもたちの能動性に働きかけるプログラムを意識するようになった。子どもが自分の好きな色と素材を選び、自分のやり方でアイディアを形にできること。たとえば、ハッピードールプロジェクトという自由なオブジェ作りは子どもたちだけでなく、付き添いに疲れたママたちも夢中になった。アートは子どもたちや家族の苦痛をしばし忘れさせ、飢えを潤し、心を開放し、目を輝かせる力があることを日々、実感している。
体も動かず喋ることもできない子どもが、病室に色を届けるとにっこり笑う。その思いがけない輝きに触れると心の底から嬉しい。5年前はたくさんの管に繋がれ力なく横たわっていた少年は訪れるたびに力をつけ、今年は初めて起き上がり、何枚もの絵を力強く描いた!この時の喜びと感動は一生忘れないだろう。


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 「ハッピードールプロジェクト」愛媛大学医学部附属病院(2012年2月)


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 「ハッピードールプロジェクト」島根大学医学部附属病院(2013年9月)

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 「ハッピーカラープロジェクト」長野県立こども病院(2013年10月)


全国には20万人以上の難病の子どもたちがいる。この大変な数の子どもたちは、病院や施設の奥で人目に触れずひっそりと闘っている。中には絶望的に見える子どももいる。それでも命ある限り、精一杯輝き楽しく生きる権利を誰もが持っているはずだ。そんな心輝く瞬間をはこぶのに、アートが役に立てたらどんなに素敵だろう!


高橋雅子



高橋雅子(たかはし まさこ)
アーティスト・アートプロデューサー/NPO Wonder Art Production・Hospital Art Lab・ARTS for HOPE代表

米国州立Western Michigan University芸術学部卒。 アメリカ現代美術のギャラリーを経て、美術館Petit Museeのシニアキュレーターに。美術展覧会の企画やワークショップ、美術館運営に携る。1999年にWonder Art Production、2004年にHospital Art Labを設立。展覧会オーガナイザーとして世界のアートを紹介するほか、美術館や博物館における子どもの情操教育プログラム、医療現場や地域社会をステージにしたさまざまなアートプロジェクトを手がける。主な企画展覧会に『アマゾンの侍たち-人間・自然・芸術-』(2007年/川崎市岡本太郎美術館)『Street Art in Africa』(2003~2005年/国立民族学博物館、福岡市博物館他)など。病院に温かさを運ぶホスピタルアート活動は、これまで全国と世界の病院77ヶ所で実施。2011年東北大震災直後にアートによる復興応援チームARTS for HOPE設立後は、東北沿岸部を中心に270回のプログラムを実施している。              関連リンク:http://wonderartproduction.com/  http://artsforhope.info/

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