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【第9回】日常を取り戻すアートから 未来を創るアートへ

高橋雅子(たかはし まさこ)
アーティスト・アートプロデューサー/NPO Wonder Art Production・Hospital Art Lab・ARTS for HOPE代表

掲載日:2013年10月30日

大震災との遭遇
東日本大震災から2年半。関東以西ではすでにこの日も風化しつつある。
しかし、延々たる東北太平洋沿岸地域では今なお、多くの人々は仮設住宅に暮らし、町の再興計画に難儀し、土地の嵩上げ工事や瓦礫処理、除塩、除染作業、原発問題、そしてご遺体探しまで、気が遠くなりそうな作業を同時進行で進めているのが現状だ。その荒涼たる現場を見る限り、この先長きに亘る復興の、実はほんの入り口に今、私たちが立たされていることを実感する。

震災を境に、私の生活も一変した。ハイエースに水と食料と寝袋と支援物資、絵画用品と手芸用品とボランティアスタッフを詰め込んで、福島、宮城、岩手各県の沿岸部をひた走る生活が、いきなり始まったのだ。震災現場でのアート活動など経験皆無。自分がどこへ向かい、何をすべきか暗中模索。ただ、一面泥色の瓦礫地帯に、心が洗われるような希望が射すような美しい色を届けたい!人の生きる力の源となる心が、少しでも晴れ晴れするひとときを届けたい!という思いだけを羅針盤に、まっしぐらに走ってきた。
http://artsforhope.info/index.html

日常を取り戻すアート
震災直後に初めて沿岸部の避難所を巡り歩いた日々。南三陸の避難所では、一面に布団が敷かれた広い体育館に呆然とへたり込んだり横になる人々の間を、全国から集結したボランティアが走り回っていた。舞台近くには全国からの物資の山。本や遊具の辺りにはこどもたちがいた。ぼんやりした子や不安そうな子。情緒不安定な子。その子たちに話しかけ、お絵描きをするうち、子どもらしい笑顔が浮かんだ。様子を見に近寄ってきたやつれた顔のパパもふっと和んだ。被災地での処し方に迷う心に、すーっと虹が架かった瞬間だった。

穏やかなそれぞれの日常が撹乱され、いきなり異常な状態に投げ込まれ平衡感覚を失った子どもたちには、心に安心感と希望の光を灯すことが先決に思えた。周りの景色や環境のすさまじさは容易く変わらない。しかし、遊びや心弾む色彩、アートの表現活動を通して子どもたちの心の色を塗りかえ、穏やかな日常を取り戻すお手伝いがしたいと思った。

混沌とした避難所一角で、不特定多数の様々な状態の人たちと接する時、それまで病院で実施してきたホスピタルアート活動http://wonderartproduction.com/hospitalartlab/の波長が馴染んだ。たとえば多彩な布で世界にたった一つのマスコットを創るHappy Doll Project。http://wonderartproduction.com/happydollproject/ 被災地では多くの子どもたちが枕を作り、行方不明の人が帰る願掛けでカエルの作品が多かった。集い、おしゃべりし、黙々と作り出す作業が、穏やかな日常感を取り戻していったように思う。色と遊ぶHappy Color Project http://wonderartproduction.com/hospitalartlab/02.htmlの応用プログラムでは、子どもたちの心が次第に開放され、「黒い毒ガス」から「青い希望の種」へ、といった様に明るい色とモチーフに変わっていった。

未来を創るアート
子どもたちも地域も穏やかな日常を取り戻し、前へ進みだした今、アートに求められるのは明日を創る応援ではなかろうか。中でも未来を担っていく子どもたちを豊かに育成することは何より大切に思う。最近、作品を前に子どもたちに注意を促すことがある。何も無かった空間にこの作品を誕生させたのはあなたたちで、すごい力=創造力を持っていること。それは、何も無い所に街や建物や農作物やあらゆるものを生み出す力の源である...と。子どもたちの未来に、たとえ再び津波が訪れてすべてを失うことがあったとしても、再生のための最も確かで大きな力を自分自身の中に持っていることを感じ、自信を持ってほしいと、切に願うからである。そのイメージを伝える手段として、アートは有効に思える。

震災直後の緊急時にアートは、いかにも無用で無力な感じだ。アートの効果や有効性だって言語化・数値化するのが難しい。しかし、今回の震災経験を経て、そんな時だからこそ尚更、アートの力が必要なのだと思うようになった。アートはあらゆる違いや隔たりをさらりと超えるユニバーサルデザイン力で、かなり深刻な場も和らげ、希望をもたらし、絶望に閉ざされたドアを開けて生きる力を蘇らせることだってあるのだ。ただしそれは、デリケートな状況と人々と内容と空気を読み誤ると、やはり無用と疎まれる可能性もあるが。

震災から2年半。被災地で重ねたアート活動の数は270回を越え、ハイエースの走行距離は地球1.3周分となった。その間に福島、宮城、岩手に支局と地元チームが生まれ、10年後を視野に入れて活動を続けている。しかし、私たちだけでは力が及ばない。アーティスト、NPO、企業、行政、文化施設の皆さんと協力しつつ継続できることを切に願っている。

高橋雅子(たかはし まさこ)
アーティスト・アートプロデューサー/NPO Wonder Art Production・Hospital Art Lab・ARTS for HOPE代表

米国州立Western Michigan University芸術学部卒。 アメリカ現代美術のギャラリーを経て、美術館Petit Museeのシニアキュレーターに。美術展覧会の企画やワークショップ、美術館運営に携る。1999年にWonder Art Production、2004年にHospital Art Labを設立。展覧会オーガナイザーとして世界のアートを紹介するほか、美術館や博物館における子どもの情操教育プログラム、医療現場や地域社会をステージにしたさまざまなアートプロジェクトを手がける。主な企画展覧会に『アマゾンの侍たち-人間・自然・芸術-』(2007年/川崎市岡本太郎美術館)『Street Art in Africa』(2003~2005年/国立民族学博物館、福岡市博物館他)など。病院に温かさを運ぶホスピタルアート活動は、これまで全国と世界の病院77ヶ所で実施。2011年東北大震災直後にアートによる復興応援チームARTS for HOPE設立後は、東北沿岸部を中心に270回のプログラムを実施している。              関連リンク:http://wonderartproduction.com/  http://artsforhope.info/

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