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【第8回】私たちは、アートによって蘇生する

田野 智子(たの ともこ)
NPO法人ハート・アート・おかやま 代表理事/コーディネーター

掲載日:2013年03月12日

霜柱のさくさくという音が、朝陽の当たるグランドに響く。冬の澄み切った青空のもと、マラソンで始まる学校の一日。私は、かつての職場であった小学校で講師をしている。学校にアーティストを派遣し、子どもとワークショップをしていくプロジェクトが、きっかけで。

「岡山県は、教育県」と言われてきた。しかし、昨今の調査によると、公立小中学校の学力の低下、校内暴力や不登校の件数の増加が挙げられる。通常学級にも支援を必要とする児童生徒が4年間で1,5倍に増加している。併せて、児童虐待、ネグレクトなどと、子どもたちを巡る課題は山積である。が、果たして本当に子どもは変わったのだろうか。

ウシマドグラフ.JPG

ガムランでバリの風の音を作る.JPG

私は、30代で小学校教諭を退職した後、障害のある人の施設で表現活動に関わって来た。学校時代には絵筆も触ったことがなかった人たちと、絵を描いた。彼らはそれまで眠っていたエネルギーを画面いっぱいに炸裂させ、惜しげもなく絵の具を使い、画面が足りなければ継ぎ足しもした。その作品をコンペに出すと、アーティストに交じって大賞も獲得した。障害は表現においてはハンディではなく、社会的規範の閉塞を揺るがす力を持っている。uniqueとはマイナスではないというイメージ。アートを通して「unique I(個性のある私)」で良いのだという自信を彼らの家族や、周辺の人たちが感じ取った。これを一施設内の出来ごとで終わらせたくない。商店街や銀行跡で、教会や学校で、川原や島で障害の有無に関わらず参加できるワークショップをした。フォーラムや展覧会を行い、実行委員会を母体にNPOを興した。岡山市内中心部の学校跡地で企業・行政と連携して現代美術展を開催したことで、直島の地中美術館開館にも関わった。気づくと「創造性と他者との関係性」を問いとしている自分がいた。

 「ファインアートと障害者アートを行き来しているんですね」と声をかけられたこともあった。自分では、既存のカテゴリーを飛び越えて、双方向のフラットな関係を紡ぎたかったのだ。徹底的なローカルの追及こそが、普遍性に通じる。地中美術館のモネの部屋の建設現場で新しいプロジェクトを始める勇気をもらった様な気がしている。それは、障害のある人と、アーティストが11のペアになり、長期継続的な関わりから生まれる新しい概念をかたちにしていく「アートリンク・プロジェクト」。限界を超えて新たな世界を築こうと模索しているアーティストをいとも容易く揺るがし、いったい人って何なのだろうと、考えさせられる日々が始まった。障害ゆえに想像性の芽をもつ人、自由な発想をする子ども、自身のキャリアを生かし人生の終焉を生きている活力のある高齢者は、まさに概念をもっている人であり、その人の存在そのものがサイトスペシフィックである。


私だけの風景 Hpのテキスト作り.JPG真鍋島でのパレード風景.JPG

長期的に、個人と関わっていくという活動を通して、2007年から3年間、「トヨタ・子どもとアーティストの出会い」に参加した。その中で、岡山県下の小学校(約420校:当時)の文化・芸術に特化した現状を調査した。かつての職場の同僚を訪ねインタビューもした。そこで知った子どもを取り巻く文化的・自然的・社会的環境。身体的障害を含め、通常学級で支援を必要とする子どもの増加。集団行動がとりにくい子どもを取り巻く学級の子どもたちの関係性。ネガティブに捉えられる、学校の現状に、言語を超えて芸術の視点からアーティストと入り込んでいった。創造性で「ガチンコ勝負」に出た。少子高齢化の深刻な島、県境のスキー場が近い村、瀬戸内海が見下ろせる高台の学校・・・。3年間のトヨタのプログラムは終わっても、岡山県内の学校に出向くことにした。ニュータウンと言われた街の学校、開校100年を迎える小さな学校、発達障害を抱えるクラスの中学生・・・。

制度や社会的規範、経済的視点、教育的効果などを机上で語るよりも、親や家族の文化的視点や、地域の社会環境を訴えるよりも。

子どもたちは、目をくるくるさせ、アーティストと「ものやこと」を創っていく。見ている周りの大人たちは、新たな子どもの可能性に気付かされる。子どもへの新しいアタッチメントが生まれていく。子どものムズムズする知的好奇心を繋いでいくことで、ダイナミズムのある地域の蘇生が図れる。子どもは未来を創っていく人。そのほんの糸口になることが叶うなら、その現場に立てるなら。私は、講師でもコーディネーターでも、NPOの代表でも、何でもかまわない。

 

藤野小美術館開館の日.JPG妖精のソリレース.JPG

子どもにとって、一日は長い。

子どもの五感と一緒に揺さぶり揺さぶられていよう。子どもに向かって歩ける大人でいようと思う。

緩やかな繋がりを求める現代社会において、五感でアナログな繋がりを求めている子どもたちを受け止めたいと思う。アートの視点で、子どもの声を聴こうと思う。

子どもは変わったのか?変わったのは何なのか?

私たちは、アートによって蘇生する。


*写真解説

1)「ウシマドグラフ」牛窓西小学校×甲斐賢治

一人1台ずつのビデオカメラで、卒業アルバムをつくった。1分間の風景を撮り、観賞会をする。そして、2人組で撮り合う友人象。最終的に一人ずつDVDに収めた。

2)ガムランでバリの風の音を作るワークショップ

3)私だけの風景 Hpのテキスト作りワークショップ

4)「真鍋島こども郵便局」真鍋小学校×真部剛一

島のほとんどが、高齢者!「私は、島のおじいさんやおばあさんたちみんなの名前を知らないけれど、私を知らない人はいない」と言い切る子どもたち。6人の子どもたちが、郵便を届け、文通し、最後にプレゼントを持って島を巡った。

5)藤野小美術館開館の日

6)「妖精の森のそりレース」上齋原小学校×タノタイガ

鳥取県との境にある学校で、妖精のタノタイガが1週間過ごす。子どもたちと協力し、そりレースの準備をしていった。恩原高原スキー場で迫力のそりレースが行われた。

田野 智子(たの ともこ)
NPO法人ハート・アート・おかやま 代表理事/コーディネーター

愛媛県松山市生まれ。小学校教諭を経て、岡山県吉備の里能力開発センターのシステム開発にかかわる。表現を通して個々の可能性と社会との接点を見出そうと、1999年NPOの前身の団体を起こし現在に至る。2004年度よりアートリンク・プロジェクトを展開し、2007年からはフロリダ州セントピーターズバーグのNPOと国際交流事業を行なっている。一方で少子高齢化の進む瀬戸内笠岡諸島での、高齢者との表現を通じた共同研究「カルチャーリンク」を継続。岡山県内の学校にアーティストを派遣しワークショップを実施すること、芸術教育の現状調査を行うなど、表現・食・文化という日常をテーマにし、障害の有無や年齢や分野を超えた人々の密接な交流から生まれる新しい価値を地域ごとの特色ある伝承文化との比較を視野に入れ展開している。編著として「アートリンク・プロジェクト」など。讀賣プルデンシャル福祉文化賞奨励賞、日本美術教育学会奨励賞など受賞。

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本サイトは、トヨタ自動車とNPOが運営するアートと子どもの総合情報サイトです。子ども向けアートイベントや、学校などでのアーティストによるワークショップの情報をお届けします。

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