
掲載日:2011年10月11日
最近、プロジェクト評価の話題をよく耳にします。現場の方々は、自分たちのプロジェクトの状況や成果を説明するための方法を必要としています。こうした状況に対して、「汎用的な評価基準や指標を作ろう」という意見もあれば、「評価なんてしたら、プロジェクトの良さが矮小化される」という意見もあります。私は、どちらの意見もわからなくはないのですが、どちらにも100%賛同することはできません。
あらためて、評価とは何でしょうか。評価には2種類あります。あらかじめ想定した理想がどれだけ達成されたかを問う「理想の評価」と、現場に持ち込まれた変革がその場でどのように機能したかを問う「状況に埋め込まれた評価」です。そして、先ほどの2つの意見は、相容れないようですが、どちらも「理想の評価」観に基づくものです。
つまり、「汎用的な評価基準や指標を」という意見は、物事が動き出す(変革が持ち込まれる)前に理想状態を想定しておける、しかも、それはどのプロジェクトにおいても同じだという前提に立っています。一方、「良さが矮小化される」という意見は、想定外のことが起きるのも含めてアートプロジェクトの面白さだし、それはプロジェクトによって異なると考えおり、そうすると、共通の基準や指標をあらかじめ想定しておくような評価はなじまないと言っているのです。しかし、どちらの意見も「状況に埋め込まれた評価」のことを忘れています。
それでは評価とは何かというと、「理想の評価」にせよ「状況に埋め込まれた評価」にせよ、現場で何が起きたのかを言葉や数値などで表してみること(記述、測定)、そして、その意味や因果関係を考えたり(説明、解釈)、将来の可能性や対策を考えたりすること(予測、制御)、であると私は考えています。そして、よりよいプロジェクト評価を実施するために必要なことは、現場の人たちが、自分たちのプロジェクトの価値観や目標や状況に合わせて、評価の手法を選択できるようになることだと思います。そのために、社会科学の専門家(の卵)である私は、評価のためのスキルや思考のフレームや、それらを身につけるためのツールを提供していきたいと思っています。
何を評価するのかを考えるために、アートプロジェクトの段階を考えてみましょう。まず、そのプロジェクトを実施する場、あるいは、そこに関わる人々の事前の準備状態(レディネス)があります。それに対して、資金や人材や時間などの投資を行って、現場に変革を持ち込みます(インプット)。次に、様々な試行錯誤や連携などを経て(プロセス)、展示やワークショップなどの成果物(アウトプット)が出来上がります。すると、一連のプロジェクトを実施したことにより、何からの成果(アウトカム)が生じます。さらには、その場や関係者に限らず、社会に対してより長期的で広範な影響(インパクト)を与える可能性があります。何を評価するかという問題は、言い換えると、アートプロジェクトのどの段階を評価するかという問題でもあるのです。
レディネスの評価は診断的評価と呼ばれます。プロジェクトが始まる前に、その地域や組織がどのような状況なのか、どのような資源を持っていて、逆にどのような課題を抱えているのかを明らかにします。この評価に基づいて、プロジェクトの中身を計画し、想定できる成果はあらかじめ想定しておきます。
プロセスの評価は形成的評価と呼ばれます。現場に持ち込まれた変革が、どのように機能しているのか、それは自分たちのプロジェクトにとってどういう意味を持っているのか(望ましいことなのか、克服すべき課題なのか、など)を明らかにします。
アウトカムやインパクトの評価は総括的評価と呼ばれます。そのプロジェクトが、どのような成果(経済的、社会的、文化的成果など)をどのくらい挙げたのか、その成果はどこまで波及し、いつまで持続したのか、などを明らかにします。あらかじめ想定しておいた目標値があれば、それがどれだけ達成されたかについても明らかにします。
このように、プロジェクト評価は、プロジェクト進行と並行して行われるものであり、時にはそのプロジェクトのこれからを考えるための材料に、また時には、そのプロジェクトの意義を社会に発信するための材料になるものだといえます。
プロジェクト評価の1、2、3の第2回では、どのように評価するか、その具体的な方法について、実際の事例をもとに紹介していきます。