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【第3回】大人でも先生でもない

タノタイガ
現代美術家

掲載日:2011年07月13日

 僕が学校に滞在するプログラムに臨むときに考えていることの一つに「大人でも先生でもない存在でいる」ということがあります。自分が大人や先生という立場を取れば、特に学校のなかで出会う子どもたちは身構えて、子供や生徒という立ち位置を取ってしまう方程式ができてしまうのではないかと考えているからです。学校の科目には「美術」や「図工」というものが存在していますが、先生がたに代わって僕が授業をしに行くわけではないと理解していますし、むしろそういった枠を越え、先生がたも巻き込みながらできるのがこういったプログラムやワークショップの意義だと考えています。
 また、僕の滞在には期限があります。先生がたは子どもたちと数年間に及ぶ関わり合いを持つことができますが、半ば旅芸人の僕にはそれができません。わずかな期間しか関われないというのはさみしいことではあるのですが、逆にその短い期間を利用して僕と過ごすひとときを「物語」としようと考えています。ですから、出会いも別れも僕の存在もより衝撃的なほうが楽しいですし、その物語には子どもたちだけでなく、先生がたも登場人物することにできます。先生がたにも一緒に未知の経験をしてほしい。こういったことを考えながら、僕は今までにいくつかの物語の登場人物として今までに「妖精」や「宇宙人」に扮して物語を作ってきました。


 2010年の冬に「子どもとアーティストの出逢い」のプログラムで岡山の県境にある雪深い小学校へ行きました。僕は全身毛むくじゃらの「森の妖精」に扮し、通学途中のバスの中から子どもたちが僕を目撃することから物語が始まります。以前下見を兼ねて学校を訪ねたときに、学校が山の中にあることから全校生徒が学校の送迎バスによる通学をしていると言うことを聞かされていたので、慣れた生活に突如として現れる衝撃的な出逢いが物語の導入には持ってこいでした。毎回、こういったプログラムを行うときには、受け入れ先の学校の周辺環境や地域の情報、方針などを収集するのが大切だと考えていますが、コーディネーターの事前情報はとても貴重ですし、実際に現地に赴いて先生方からお話しを伺うことも重要な時間です。僕の場合、予め決まった企画を持ち込むわけではないのでその環境に応じたテーマで物語が決めています。それはそれで労多いのですが、それもまた醍醐味だと感じています。
 岡山の物語では全校生徒二十余名の子どもたちをチーム分けしてソリやチームの衣装を作ってもらい、近くのスキー場で「森の勇者」を決めるレースを行いました。それぞれのチームには先生がたにも加わってもらったのですがソリ作りはいつしか先生がたにとってもプライドを掛けた勝負ごとになり、「早く滑るためには」「安定するには」と時に知恵となり、時に子ども達にダメ出しをされたりもします。また、レースではソリの乗り手になって子どもたちに引っ張ってもらい、転んでしまえば先生だって雪まみれ。みんなで声援を送り、みんなでお腹を抱えて笑います。僕の物語の中では、子どもも先生もみんな一緒の出演者です。レースの最後には妖精の「お尻の毛」で作ったという「毛メダル」が配られました。もちろん子どもたちは「臭いー」とか「汚いー」と喜んでいいのか複雑です。そして僕は別れを告げてそのままスキー場のリフトに乗って山に帰って物語は終わるのです。そしてそれっきり、素顔を見せることもお別れの会はありません。そのほうが子どもたちのこれからの成長の中でより長く、思い出深く、じんわりと「あれは何だったのだろう?」と効いてくると考えているからです。


 岡山のプログラムより前にも、北海道十勝の小学校で滞在することがありましたが、この時の僕は全身銀タイツの宇宙人役です。宇宙船から落ちてきた「王子」が星に帰るため子どもたちに協力してもらい、迎えに来てもらうためにと僕の星に合図を送る装置を作りました。子どもたちが校庭に出ると全身銀色の僕が校庭に倒れているところから物語は始まります。日差しを浴びて銀色にギラギラと輝き、しばらくのあいだ倒れたままでじっと動かない僕。一人の生徒が僕を足でつついたので、それを見た先生は「足で触らないの!」と叱りましたが、のちに「あれは実は正しい行動だったのでは?」と先生がたとの話し合いに発展しました。見たこともない、ピクリとも動かない銀色の(キモチワルイ)物体を手で触ってみるなんてことのほうがあり得ないのですから。こういった子どもたちの行動を肴にして話し合う先生がたとの時間もとても興味深いひとときです。日本語もままならない宇宙人に純粋な低学年の子どもたちは一生懸命に「食事の前には手を洗うの!」とか「牛乳パックはこう畳むの!」「人の歯ブラシで歯を磨いちゃダメ!」と僕を叱りつけながらも手取り足取り真剣に教えてくれます。僕が大人でも先生でもない無垢な役を演じることで、子どもたちは急に大人ぶってくれたりします。ともに過ごすわずかな時間の中からも子どもたちの成長が垣間見られることもしばしばです。余談ですが最終日にはみんなで作った塔から放たれた炎と花火による合図で、無事に宇宙船(段ボールで改造した軽自動車)が迎えに来てくれたのですが、宇宙船を操縦するお姫様役には事務職員の先生に全身タイツを着て扮してもらいました。

 先生がたをも巻き込んだ僕のこういった「物語」がすぐに子どもたちの何かに役に立つとは思っていません。でも、じんわりじんわりと、そしてふとしたときに思い出し、子どもたちがこれから成長していく「物語」のプロローグになっているかもしれないと期待して止みません。

タノタイガ
現代美術家

タノタイガ氏は、東京造形大学、東北芸術工科大学大学院に於いて彫刻を学び、現在では、彫刻の他に、 絵画、映像、パフォーマンスなどの表現媒体を通して作品制作を行なうアーティスト。そのユーモラスかつ切れ味鋭い視点で、鑑賞者を楽しませるだけでなく、普段当然のように受け入れている社会シ ステムや常識という概念を一変させるエネルギーと説得力を持つ作品を数多く手がけている。また、 アーティスト自身がキャラクターとなり、作品を媒介としたコミュニケーションを鑑賞者との間に生 み出す独特の作品スタイルを確立し、現在は、全国各地の美術館、地域のアートプロジェクト等で活躍している、新進気鋭のアーティストである。

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