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【第2回】転校生はアーティスト!?
〜北海道アーティスト・イン・スクール事業における
コーディネーションとその重要性について〜

漆 崇博(うるし たかひろ)
AISプランニング 代表/トヨタ・子どもとアーティストの出会い事務局/おとどけアート事務局

掲載日:2011年05月19日

 もし、学校にアーティストが転校生としてやってきたら、あなたはどう接しますか?友達になりますか?一緒に何かやりたいと思いますか?それとも、まずは遠くで眺めますか?

  現在私は、北海道でアーティスト・イン・スクールという事業を展開し、その全体の企画構成や、アーティストと学校の繋ぎ手となるコーディネーションを行っています。
  この事業は、小学校にアーティストを「転校生」として紹介し、空き教室などを利用して作品制作や表現活動をベースに、学校や地域の方々と交流します。
  アーティストは転校生ですから、特に講師や先生となって授業を行うということではなく、休み時間や放課後などの自由な時間をつかって子どもたちと交流し、共に創作活動を数週間展開する訳です。  活動内容は、アーティストが「学校でやってみたいこと!」を軸に構築し、ジャンルも美術、音楽、ダンス、演劇、伝統芸のなどなど多岐にわたります。学校の規模や、地域の環境によって変化する為、どれをとっても同じ形にならないのが、この事業の特徴です。

  さてここで、実際の活動をコーディネーターとして大切にしている事柄を含め、ひとつご紹介しましょう。
  2010年11月、札幌市立福住小学校を会場に、映像作家の斉藤幹男氏が実施した活動『火星世界旅行』。この活動は、斉藤氏が得意とするアニメーション映像に加え、昔懐かしい特撮の技術や、合成映像を駆使した実際の活動を作るという内容でした。
  そもそも授業などとの絡みのない取り組みを、開催にこぎ着けるまでには、障害が多いことも事実ですが、ある程度実績を重ねると、そこで築き上げた人脈を活用して、学校や先生を紹介していただくことで、比較的スムーズに話が進む場合があります。私もここ数年は、先生たちのネットワークで、事業に興味のある学校をご紹介いただき、実施をしてきた経緯があり、この小学校も例外ではありません。
  11月初めの全校朝会で、転校生として紹介された斉藤氏は、約2週間学校へ通い、毎日休み時間、図工室をアトリエとして活用しながら、創作活動を行いました。  ここで大切なのは、出会いのインパクトであり、その演出を学校、アーティスト、コーディネーターでしっかりと考える必要があります。この時は、運良く元々カリキュラムに位置づけられていた11月初めの全校朝会という節目のタイミングで、アーティストを紹介できたことがその後の取り組みに少なからず影響を与えたと感じています。

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 さて、実際の活動はというと、一日の中で、休み時間は、中休み、昼休みをあわせても約40分。放課後の時間を合わせても一時間程度の交流時間しかありません。しかし、授業というある種の制約がない自由な時間で交流することが、子どもたちの積極性や、エネルギーを多いに引き出し、連日、斉藤氏のアトリエは、子どもたちや先生で満員状態。その状況をヒョウヒョウとさばきながら、子どもたちを撮影に参加させていきます。時には、火星人や宇宙の絵を一緒に描いたり、撮影に必要なセットを作ったりもします。
  基本的には、ある程度のスケジュールを組むものの、日々変化する状況を踏まえ、アーティストのペースで、やりたいようにやってもらう。何か、問題が起きそうな時は、様子を見ながら教職員の方と相談する。そんなやり取りを学校とアーティストの間に入り日々積み重ねていくことが重要で、コーディネータも常に現場に張り付くことが鉄則です。

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 また、アーティストは毎日子どもたちと一緒に給食も食べます。これがまた大切な時間で、給食を一緒に食べた後の活動には、決まってそのクラスの子どもたちが活動に興味を持ち続々と参加してきます。一見、創作活動とは関係のない交流の中で、人に興味を持つ子どもたちの感性が刺激される瞬間です。
  アーティストの中には、やはりシャイな方もいますから、コーデイネーターも一緒に給食を食べながら、コミュニケーションの促進を図ります。

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 こうなってくると、毎日アトリエに通う子どもも現れ「常連さん」と呼ばれます。そして、常連さんの多いクラスの担任の先生が、「こんなに子どもたちが喜ぶのなら、一度授業で一緒に活動しませんか?」と打診してくれるほどです。
  授業との連携は、この活動にとって前提にしてはいませんが、決してマイナスになることはありません。そうした学校からの要望もある程度ポジティブに、柔軟に対応する姿勢をまずは持つことが大切だと考えています。ただし気をつけなくてはならないのが、先生が考える教育目標と、アーティストが目指す目的が、常に合致すとは限らないという点です。あくまでもアーティストが提案する活動の趣旨を先生に理解していただきながら、可能な範囲でできることを考え、両者が納得して取り組めるレベルまで、しっかりと話し合い、調整していく必要があります。

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子どもたちとの交流に加えて、この活動では、休日に予定されていた保護者主催のイベントにも特設ブースを設け、絵を描いたり、撮影会をしたり、制作中の作品上映し、保護者や地域の方にも制作のプロセスを体感していただきました。
  こうした保護者や地域への働きかけは、普段アートに触れることの少ない方々へのアーティストの周知につながることも然ることながら、学校の取り組みや当事業の評価にもつながり、事業終了後の学校の印象が大きく変わるきっかけとなります。その為、学校、アーティストの両者に、積極的に協力を依頼し、計画的に行うべきであると考えています。コーディネーターが、普段から活用している媒体だけでなく、学校独自のネットワークや媒体を通じて段階を追って広報する必要があります。

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さて、最終的に完成した映像作品は、上映会という形でお披露目しました。今までの活動に積極的に関わってきた子どもたちも、あまり参加していない子どもたちも、「あ!あの子が映ってる!」「うわ〜!」と奇声や歓声をあげながら鑑賞し、大興奮の中、幕を閉じました。
  最後の成果発表やお披露目の演出に関しては、やはりアーティストの要望を第一に考え、学校に協力をお願いします。この時点まで来ると、アーティストと学校の関係もかなりできあがってきているので、前例のない仕掛けや取り組みに関しても、交渉次第でOKが出る場合もあります。ここに、学校という環境の潜在力が試される瞬間があり、ある程度大胆な提案も、思い切って投げかけるよう努めています。


この事例からも解るように、そもそもこの事業は、教育やアートの価値や成果を追求するものではではありません。学校が持つ環境にアーティストが介在することで生まれる様々な可能性を追求しながら、学校に地域のあらゆる世代の方々が集い、交流する機会の創出、また地域文化を共有し発信する場として理解され、利用される一つのモデルケースになることを目指しています。
  また、教育現場での活動でありながら、授業の形式をとらないことで、活動内容、活動への関わりにおける自由度を向上させ、通常の学校生活では味わうことが難しい創造的且つ刺激的な体験を子どもたちだけではなく、先生、保護者、地域の方々が共有する機会を生み出すことが狙いです。
  その為には、学校とアーティストだけではなく、コーディネーターの存在が必要不可欠なのです。その業務は多岐に渡りますが、お互いが持っている目的のギャップや価値観の溝を埋め、繋ぐという実行力を持った存在が、現在、アートや教育現場以外の社会にも求められていると感じています。

漆 崇博(うるし たかひろ)
AISプランニング 代表/トヨタ・子どもとアーティストの出会い事務局/おとどけアート事務局

2002年宮城教育大学大学院に在学中、仙台市内商店街に於いて「ロジアート展」を企画。以来、既存のハードを生かした創造拠点形成の担い手として様々な企画・提案・コーディネートを行う。 2004年から、北海道に於けるアーティスト・イン・スクール事業にプロジェクトディレクターとして参加。また2005年からは、香川県観音寺市内商店街に於けるまちづくり事業に参画し、芸術(アート)を媒介として地域社会(コミュニティ)そこに暮らす人々の拠り所となる新たな場の創出を目指した活動を展開。2007年には、コーディネート業務及び活動展開の拡充を目指してAISプランニング事務所を設立、代表となる。2010年からは、「トヨタ・子どもとアーティストの出会い」事業の事務局として、ポータルサイトの運営、全国各地の芸術文化交流事業のコーディネートを行い、現在に至る。 【略  歴】 1977 北海道石狩市で生まれる 2000 弘前大学教育学部中学校教員養成過程美術科専攻卒業 2004 宮城教育大学美術科修士課程修了 2004 フリーのアートコーディネーターとして活動を開始 2007 AISプランニング設立 代表となる 2008 札幌アーティストインスクール事業おとどけアート事務局に就任 2010 トヨタ・子どもとアーティストの出会い事務局に就任

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