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【第13回】子どもとアーティストが出会う活動の
「これまで」と「これから」
第3回 子どもとアーティストの、これからの出会い

大澤寅雄
(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員

掲載日:2015年02月25日

「これまで」を振り返ることと、「これから」を考えること

このコラムは、1回目を「子どもとアーティストの、これまでの出会い」、2回目を「数字から見る、子どもとアーティストの出会い」と題してお届けしました。最終回となる3回目は「子どもとアーティストの、これからの出会い」について考えます。

1回目のコラムで、1990年代後半から現在までの、子どもとアーティストの出会いに関する動向を振り返りましたが、長期的な視野で過去を振り返ってみると、子どもとアーティストの出会いには様々な変化があったことが分かります。しかし、当たり前のことではありますが、未来を予測することは、過去を振り返ることよりもずっと難しいことです。例えば、2015年現在の10歳の子どもがアーティストと出会ったことが、15年後の25歳になったときにどのような影響が残されているのか。いまから15年先の2030年に、子どもとアーティストの出会いに求められていることは何か。そのような問いに答えられる人は、どこにもいないと言えるでしょう。

しかし、たとえ未来のことは誰にも分からないとしても、どのような眼差しを未来に向けながら歩いていくべきか、常に手探りをしていたいと思います。私には予言的なことは何も言えませんが、過去に記された未来への眼差しを参照しながら、2015年現在の「これから」を手探りしたいと思います。


15年前に発表された「All Our Futures」の未来に向けた眼差し


2000年、英国の教育技能省と文化・メディア・スポーツ省が共同で「英国創造的教育・文化教育諮問委員会」を組織して実施した本格的な調査研究の成果が「All Our Futures: Creativity, Culture and Education」と題されたこのレポートにまとめられました。この委員会には、能力開発・教育アドバイザーであり思想家でもあるケン・ロビンソン 、ロンドンオリンピック2012における文化教育委員会の最高責任者で英国を代表する複合文化施設「サウスバンク・センター」の芸術監督でもあるジュード・ケリー、指揮者でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督であるサイモン・ラトルなど、英国の文化、教育、経済のリーダーたちが名を連ねています。その「All Our Futures」の中から、いくつか文章を引用します。

「"世界中で、教育界はかつてない課題に直面している。経済、技術、社会、人に関する課題である。政策立案者は、緊急の「人的資源」開発が必要だと強調している。特に、創造性、適応性および優れたコミュニケーション力を有する人材である。All Our Futuresは、このために、教育の最も基本的な前提のいくつかを再検討する必要があると主張する。"」
* 氏が2006年にインターネット上に公開されたTEDでのプレゼンテーション「学校教育は創造性を殺してしまっている Ken Robinson says schools kill creativity」は再生回数が3千万回を超えている。

「"創造性については多くの誤解がある。これを芸術や特定のタイプの人だけに限定して考える人もいれば、「教わる」ことや育てることができないと考える人もいる。しかし、我々が持つ創造性の概念では、人間の活動のあらゆる分野において創造的達成の可能性がある。そしてそのような達成能力は、数少ない人々ではなく、多くの人々が有すると考える。"」

「"創造性のための教育とは、若年者の創造的考えや創造的行動を発達させる教師のことであり、これには創造的に教育することが含まれる。若年者に自分の創造的能力を信じさせ、挑戦するための自信を与えること、すなわち彼/彼女らの創造的能力を認識し、彼/彼女らに創造的な長所を発見させること、また一般的な能力や技術、社会の一員としての包容力や感受性、想像的であるとはどのようなことなのかという理解を促すことで、彼/彼女らの創造性を育てることも含まれる。"」

このレポートが2000年に発表されたあと、2002年4月には、子どもたちの学校での学びをより創造的なものにするため、文化・メディア・スポーツ省と教育技能省が「クリエイティブ・パートナーシップ」という事業を立ち上げ、イングランド芸術評議会の主導でプログラムが実施されました。
2000年、つまり15年前と言えば、さほど遠い過去には感じないでしょうし、ここに書かれている内容は、今では多くの人々が理解し、共感できるのではないかと思います。ですが、今になって「All Our Futures」の未来に向けた眼差しに気がつきます。というのも、このレポートが発表された当時は、例えばTwitter、Facebook、LINEといったインターネット上のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のほとんどが、まだサービスを開始していませんでした。当時は存在していなかった技術を、今では、多くの子どもたちが普通に使っています。その恩恵だけでなく、コミュニケーションの歪みが現れていることも、多くの人が知ることでしょう。
おそらく、そうした技術の登場を予期しながら、「All Our Futures」では「創造性、適応性および優れたコミュニケーション力を有する人材」の必要性や、「社会の一員としての包容力や感受性、想像的であるとはどのようなことなのかという理解を促すことで、彼/彼女らの創造性を育てること」、すなわち「創造性のための教育」を訴えかけていたのです。


「これから」を手探りするためのネットワーク

今後15年間で、インターネットは飛躍的に技術革新が進むことでしょうし、まだ今は想像もしていないような技術が、社会や経済に変革をもたらすこともあり得ます。また、社会の変化をもたらすものは技術革新だけではありません。2011年の東日本大震災や福島第一原発のように、自然や人為による災害も、社会に大きな変化をもたらす可能性があります。

2013年11月。「全国アートNPOフォーラムin神戸」において、全国各地から集まった「トヨタ・子どもとアーティストの出会い」のコーディネーターたちの公開会議が開催され、「これからの子どもを取り巻く環境を考える~アートと子どもの現場から」というテーマで話し合われました。この公開会議の中で、各地で活動するコーディネーターから聞かれた意見に、私は何度もうなずいたり、考えさせられたりしました。先述したSNSや携帯電話などによる子どもたちによるコミュニケーションの変化や、大都市、郊外都市、山間地といった地域特性による「コミュニティの教育力」の違い、東日本大震災後の被災地の子どもたちが抱えている課題など、コーディネーターが感じている様々な現状課題を共有しながら、これからの子どもを取り巻く環境を参加者全体で考えました。

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その機会で私が痛感したのは、子どもとアーディストの出会いの現場に立ち会っているコーディネーターが、自ら感じたことを、他のコーディネーターと共有するネットワークの重要性です。一人のコーディネーターの経験だけでなく、異なる地域や異なる活動分野の複数のコーディネーターが集まり、これまでにどのような成果があって、何が現在の課題になっているのか、これからどんなことに立ち向かうべきなのかを考え、お互いに連携し、協力し合える関係を作っておくことです。
自分一人では予期し得ない未来の課題に、他の誰かが先に課題に直面しているかもしれません。また、成果を見出しているかもしれません。その経験を、次に同じ課題に直面した人が活かせるのではないでしょうか。課題や成果を共有することも、互いに連携し協力することも、常日頃の信頼関係の上に成立するものです。そうした関係性のあるネットワークこそが、「これから」への眼差しや手探りの支えになるものだと思います。

私は、2004年に開始された「トヨタ・子どもとアーティストの出会い」が培ってきた社会的な意義は、このコーディネーター同士の信頼関係を土台にしたネットワークにあると思っています。子どもとアーティストの出会いの「これから」を描き、その可能性を全国各地に広げていくためにも、「トヨタ・子どもとアーティストの出会い」の益々の発展に期待しています。



大澤寅雄
(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員

1970年生まれ。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。慶應義塾大学卒業後、劇場コンサルタントとして公共ホール・劇場の管理運営計画や開館準備業務に携わる。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長、東京大学文化資源学公開講座「市民社会再生」運営委員を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント"ソーシャル・シェア"への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』。

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