【第12回】子どもとアーティストが出会う活動の
「これまで」と「これから」
第2回 数字から見る、子どもとアーティストの出会い

大澤 寅雄
(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員

・数字と向き合うことの意味

前回のコラムでは、1990年代後半から現在までの、子どもとアーティストの出会いに関する様々な社会の出来事や、国、自治体、企業、NPOの動向を振り返りました。長期的な視野から、これまでの子どもとアーティストの出会いを俯瞰すると、日々の活動からは見えてこないような変化が見えてきたのではないでしょうか。
実際、子どもたちと向き合う活動は、昨日と今日、今日と明日で驚くような変化が起きるわけではありませんが、去年と今年、今年と来年では、子どもたちの成長や変化に驚くことがあるでしょう。そういう意味では文化や芸術も、子どもたちの成長や変化と似ています。去年と今年、今年と来年では、驚くような変化が起きていなくても、数年前と現在、現在と数年後には、ずいぶんと進歩や変化を実感するものです。正直なところ、私は2004年に『トヨタ・子どもとアーティストの出会い』が始まったとき、国や自治体や企業やNPOが、全国各地で子どもとアーティストの出会いを支援している現在のような状況を、想像していなかったのです。
さて、2回目となる今回のコラムでは、様々な調査や統計データから浮かび上がってくる、子どもとアーティストの出会いについて考えたいと思います。子どもとアーティストの出会いの現場で起きることに比べれば、こうした調査や統計データに掲載される数字を眺めることは、とても退屈で、そこにどんな意味があるのか、ピンと来ない人も少なくないでしょう。数字を眺めたり作ったりすることを仕事の一部としている私自身ですら、その気持ちはよく理解できます。
それでも、数字と向き合うことに意味があると思うのは、その数字を、どのように読み、伝えるのかによって、「現場」を知らない人々に対する説得材料を発見し、自分が関わっている活動が、どのような位置にあるのかを知ることができると思っているからです。ですから、この先に紹介する様々な数字を、皆さんの活動にとって有益なものにしてもらえれば幸いです。

・子どもの文化芸術 体験に対する国民の世論(「文化に関する世論調査」より)

日本国内の文化に関わる公的な世論調査として、内閣府が実施する「文化に関する世論調査」(平成21年11月調査、調査対象:全国20歳以上の者、有効回収数:1,853人)があります。この中の「子どもの文化芸術体験について重要だと思いますか」という設問(グラフ1-1)では「重要である」が93.0%と、10人に9人以上は子どもの文化芸術体験が重要だという考えを持っています。

a1.jpg

また、「あなたは、子どもの文化芸術体験について、何が重要だと思いますか」という複数回答の設問(グラフ1-2)で、最も多い選択肢は「学校における公演などの鑑賞体験を充実させる」(58.3%)、次いで「地域の文化施設における、子ども向けの鑑賞機会や学習機会を充実させる」(49.5%)となっています。

a2.jpg

さらに、「今後、文化芸術を振興していくために、国において特にどのようなことに力を入れてほしいと思いますか」という複数回答の設問(グラフ1-3)では、「子どもたちの文化芸術体験の充実」(48.6%)が最も高い割合となっています。

a3.jpg

これらをまとめると、子どもたちの芸術文化体験の重要性は幅広く認識されており、中でも学校での鑑賞体験を充実させることが重要であり、国において子どもたちの芸術文化体験を充実させることが求められている、ということが分かります。

・学校現場での状況(「学校における鑑賞教室等に関する実態調査」より)

次に、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)がまとめた「学校における鑑賞教室等に関する実態調査」(平成20年調査、調査対象:全国の小・中学校・高校・中等教育学校・特別支援学校、有効回答数:20,237件)を見てみましょう。まず、「貴校では今年度(平成19年度)、舞台芸術の鑑賞教室を実施しましたか。または実施する予定ですか」という設問(グラフ2-1)で「実施した(実施する予定)」は68.9%、「実施しない」は30.9%で、約3割の学校では舞台芸術の鑑賞教室を実施していないことが分かります。

a4.jpg

「実施しない」を選択した学校に対して、「鑑賞教室を実施しない理由は何ですか」という複数回答の設問(グラフ2-2)では「実施したいが予算がない」が最も高い58.0%となっています。

a6.jpg

また、全ての対象に対して「貴校では、舞台芸術鑑賞以外に芸術文化の鑑賞機会を設けていますか」という設問(グラフ2-3)では「美術館・博物館などでの作品鑑賞」が18.0%、約2割となっています。

a7.jpg

先ほどの「文化に関する世論調査」では、子どもたちの芸術文化体験の重要性が幅広く認識され、その充実が求められていました。そうした認識やニーズと見比べて、学校現場での文化芸術体験は、必ずしも充足しているわけではないという実態が浮かび上がっています。

・保護者の考え方や家庭での状況(「TOA 音楽と教育の意識調査2010」より)

業務用音響機器の専門メーカーのTOA株式会社が社会貢献活動として行っている「TOA音楽と教育の意識調査2010」(平成22年調査、調査対象:全国の男女500名 男性250名、女性250名)では、保護者の考え方や家庭での状況が伺えます。「学校以外で、お子さんに音楽ホール、劇場、美術館などで芸術文化を実際に生で体験する機会を与えたいと思いますか」という設問(グラフ3-1)に「そう思う」は41.4%、「ややそう思う」は44.5%で、8割以上の保護者は、自身の子どもに芸術文化の体験機会を提供したいと考えています。

a8.jpg

ところが、「この1年間で、お子さんに実際にそういった機会を与えましたか」という設問(グラフ3-2)では「与えた」が27.6%、「与えていない」が72.4%となっていて、7割以上の保護者は子どもに対して芸術文化の体験機会を提供していない状況が分かります。

a9.jpg

子どもたちの芸術文化体験の重要性に対する国民の認識とは裏腹に、家庭での芸術文化の体験機会は、かなり低い割合となっていることが分かります。

・数字から見える、子どもたちとアートの出会い

以上の3つの統計資料や調査の結果を要約すると、
20歳以上の回答者の93%が、子どもの芸術文化の体験が重要だと認識し、その中でも58.3%は学校における公演などの鑑賞体験を充実させることが重要だと考えている。
全国の小・中・高校等で、鑑賞教室が行われている学校は69%、行っていない学校は31%。鑑賞教室を実施しない学校の理由は「予算がない」が58%となっている。
86%の保護者が、子どもに、学校以外での芸術文化の体験を提供したいと考えている。しかし、1年間で実際に芸術文化体験を提供している保護者は、28%となっている。
ということが分かりました。つまり、ほとんどの大人が子どもの文化芸術体験が重要だと思っているにも関わらず、その機会を提供する役割が「学校」や「家庭」だけでは充足しておらず、子どもの芸術文化体験を提供する担い手が他にも求められている現状が浮かび上がってきたのではないでしょうか。
ですから、そこに地域に根差したアートNPOや企業が協働することの意味合いがあるように、私は考えます。子どもと芸術文化との出会いを仲介する役割は、学校/家庭のどちらかではなく、そこにアートNPOや企業が協働することで、より多くの出会いの場を提供しながら、豊かな地域社会を形成することが期待されているのではないか。それが、『トヨタ・子どもとアーティストの出会い』を10年間継続してきたことの意義でもあると思います。

第1回は時間軸をベースに「これまで」を、そして第2回は数字をベースに「いま」を見てみました。最終回となる第3回は、様々な政策や現場の先端から「これから」を考えてみましょう。

大澤 寅雄

(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員

1970年生まれ。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。慶應義塾大学卒業後、劇場コンサルタントとして公共ホール・劇場の管理運営計画や開館準備業務に携わる。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長、東京大学文化資源学公開講座「市民社会再生」運営委員を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント"ソーシャル・シェア"への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』。