【第3回】アーティストと子どもをつなぐコーディネーター
~小学校でのワークショップ型授業:コーディネートの実際(2)~

4.担当の先生へのヒアリング

 ASIAS授業の実施を希望する先生のところに、コーディネーターが出向いて、最初の打合せ。通常は平日の16時ぐらいから1時間程度ですが、忙しい先生にとっては放課後の貴重な時間を割いてもらうわけです。団体やASIASの説明をしつつ、先生がどんなことをやりたいか、アーティストにどんなことをしてもらいたいか、対象となる子どもたちはどんな子どもたちか、などをヒアリングするのが目的。と同時に、先生ご自身が教育に対してどんな考えをお持ちの方か、あるいはどんな性格の方か、なども把握できると、次のアーティスト選定の段階でヒントになります。先生にざっくばらんにしゃべってもらうことが大切で、こちらのPRをしたいばかりに、コーディネーター側の話に長時間を割くのはいただけません。

 さて、先生がASIAS授業に期待することは様々です。例えば、学芸会に向けた劇づくりなど、具体的な希望がある場合もあれば、子どもたちに身体を使ってなにか表現させたい、など比較的やんわりとした希望の場合もあります。いずれにしろ、先生の希望や考えを丁寧にヒアリングすることが大切です。そして、同一学年に複数クラスある(小学校の)場合は、できれば各担任の先生のお話を伺いたい。また、管理職の先生の意向がどの程度反映されているのか、すなわち、本当にその担当の先生がやりたいことなのか、管理職の先生のほうが積極的なだけなのか、を判断する必要がある場合もあります(管理職の先生が打合せに同席して頂ける場合はそのこと自体は有難いことなのですが、その際担当の先生の真意を推し量る必要があるかもしれません)。

 一方、学校の先生が”芸術家の授業”ということに対してイメージできることには限界があります。ダンス・アーティストの授業が子どもたち同士の関係性(仲間づくり・学級づくり)やコミュニケーションにおいて効果をあらわす、という発想に及ぶ先生は、たぶん少ないでしょう。先生が考えるダンスの授業は、音楽に合わせて元気に踊る、というイメージが普通ではないでしょうか。ということは、先生の希望を丁寧にヒアリングするとともに、その希望の裏にある、先生の教育観や子ども観を探りつつ、先生の希望の半歩か一歩、その先を行く、より質の高い授業提案ができるようなアーティストを起用するように、事前ヒアリングはそのためのヒントを得る機会でもあるわけです。

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5.アーティストの選定

 学校の先生にヒアリングしたのち、いったんそれを持ち帰って、アーティストをだれにするか検討します。先生の希望内容、子どもの学年、子どもの人数、子どもの実態、実施回数、発表の有無、スケジュールなどを勘案して、ネットワークを駆使し、その学校に最適なアーティストを検討するわけです。担当の先生とアーティストとの相性も大切な選定基準です。ヒアリングは短い時間だったかもしれませんが、可能な限り先生の性格や考え方などを把握して、うまく合いそうなアーティストを考えます。特に比較的長期になるプロジェクトの場合は、両者の相性が悪いとあとあと苦労するので要注意です。

 かといって、問題がなさそうなマッチングばかりを考えてしまうと、結果、無難ではあるが、あまり刺激的でない取り組みになってしまう危険もあります。バランスが大事。

また、初めての新しいアーティストを積極的に起用していくことも、事業全体の継続性や発展を考えた場合、大切なことです。例えば、比較的短期間の取り組みで、小学校の通常学級中学年対象で、かつ、この先生なら大丈夫だろう、という場合は、積極的に新規アーティストを起用したい。もちろん、それ以前に日頃から、面白いアーティストを発掘する(目を付けておく)こともコーディネーターの大切な仕事です。劇場や美術館などに足しげく通い、自分の目で面白いアーティストを見つけ出し、また、信頼できる人から紹介してもらう(私の場合、ASIAS常連アーティストからの紹介が比較的多い)などして、子どもたちに出会わせたいアーティストを常にリサーチしておくわけです。

 アーティストの創作活動を理解すること、すなわち、個々のアーティストの創作活動のどこがすごいのか、それはどんな特徴を持ち、アーティストは何を大事にして活動しているのか、をコーディネーターは把握していなければいけません。そのうえで、子どもたちとどんな触れ合い方をするアーティストなのか、子どもたちの前で話をするのがうまいのか下手なのか(下手なのが悪いわけではありません)、など、総合的に判断して、ASIAS候補校への起用を検討することになります。

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 当NPOの場合は、首都圏で活動しているので、圧倒的に首都圏在住のアーティストを起用することが多いですが、首都圏・関西エリア以外の地域の場合、なかなか地元のアーティストがたくさんいるわけではないと思います。アーティストの活動の場が大都市圏に集中しているので仕方がないところです。私の考えとしては、アーティストたちは、もっとどんどん日本全国いろいろな地域に移動して活動した良いと思っていますし、そのための旅費支援制度が整備されれば良いと思っています。質の高いワークショップをするアーティストが地方に出かけていけば、その地域のアーティストにも刺激になるし、ほかでもない子どもたちにとって良い経験になると思うので。でも、それを企画・調整するコーディネーターは地元のことを良く知った、その地域の人が長期的な視点を持ってコーディネイトしてもらいたい。となると、コーディネーターがアーティストをリサーチするために、移動する費用もだれかが支援してくれるといいのですが、、、。いずれにしろ、この地域間格差の問題は(これに限りませんが)大きな社会的課題でしょう。

6.アーティストと先生との事前打合せ

 アーティストへASIAS授業を依頼し承諾を得られたら、日程を調整して、アーティストと一緒に学校へ。具体的なワークショップ(授業)内容を担当の先生と相談します。授業スケジュールの調整や体育館等の会場下見などをしていると、打合せは2時間前後かかることが多くなります。
この打合せで大切なことのひとつは、できる限り、アーティストと先生との意思疎通を良くして、その後の信頼関係構築の土台を作ることです。アーティストと先生が互いをよく知って、授業当日もスムーズなコミュニケーションがとれるようにしておくことがなぜ大切かと言うと、授業のとき子どもたちは、たとえアーティストが授業を進行していても、その場にいる先生のことを常に意識しているからです。もしも、先生が授業のテーマやアーティストのやろうとしていることを面白がっていないと、そのことは瞬時に子どもたちに伝わってしまうでしょう。そうならないためにも、できる限り、事前打合せで相互理解を促しておきたいものです。

とは言っても、学校の先生とアーティスト、両者の普段住んでいる世界にはかなりの隔たりがあります。しゃべる言語が違う、と言っても良いくらいです。その両者の間に立って、いわば通訳の役割をするのがコーディネーターということになります。
学校の制度上、どうにもならないような提案をアーティストがするかもしれません。あるいは、先生のほうがアーティストの創造性を全く無視して、自分の指導の補佐的なことをさせようとするかもしれません。そんなとき、コーディネーターは両者の立場を理解・尊重しつつ、このプロジェクトが何を目指しているのかを三者で共有できるような話し合いに持っていくことが大切です。

この、アーティストと先生との事前打合せは、場合によっては、1回で済まない場合もあります。いったんアーティストが持ち帰って、具体的な授業案を検討し再度学校を訪ねる場合もあります。また、特別支援学級での取り組みなどの場合、打合せの日に、少し早く学校へ行って、子どもたちの通常の授業の様子をアーティストとともに見学させてもらうこともよくあります。障害は個性と言っても良いと思うのですが、子どもたちは個々に大きく違うので、普段の様子を先生から聞くだけでなく、見学させてもらうわけです。そのことがアーティストがワークショップの具体的内容を考えるときに、ヒントになる場合もありますし、実施日当日を迎えるにあたって、アーティストとして心構えができる、ということもあります。