【第2回】アーティストがやってきた!~経費をどうする~~

糸井 登
立命館小学校 教諭

アーティストを学校に招く際、私が困ったことは二つです。

一つは、謝礼等の経費をどうするか?

もう一つは、職場の先生方をどう説得、納得させるか?

この二つに尽きます。今回は、まず経費のことにふれながら、話をしてみたいと思います。

1 その出会いは、偶然?いや運命でしょう!

 最初に小学校にお招きしたアーティストは、音楽家の野村誠さんでした。

 ある日、いつものように読んでいた朝日新聞に、「大阪の民族学博物館で幼稚園児と一緒に曲作りに取り組んでいる音楽家の様子」が紹介されていたのです。

 幼稚園児と一緒に曲作り?・・・この人、面白そうだなと直感で思いました。と言うのも、この時、私は、音楽が大好きだった子ども達と、曲作りができないかなあと思っていたのです。けれど、音楽に詳しくない私は、何をどうしたらよいのか、さっぱり分からない状態だったのです。何か突破口が欲しい、そんなふうに思っていました。

 翌日、早速、私は、大阪の民族学博物館に電話を入れてみることにしました。

 電話口に出られた女性の方は、今、その音楽家は東京に戻っていて、いらっしゃらないことや、今度、民族学博物館に来られる日程を教えてくれました。

 さて、教えていただいた日に再度電話を入れてみますと、依頼の概要を先日の女性の方から聞いていたのか、野村さんは「○月△日か、×日なら行けるけど、それ以外は、ちょっと難しい」と言って下さったのです。

「ありがとうございます」と返事をした私は、近日中に調正をして、返事をさせていただくことを伝え電話を切りました。

 この音楽家が、野村誠さんだったのですが、後で聞いた話では、野村さんはこの話を断りたかったそうです。そこで、一週間後くらいの日をわざと指定されたそうです。学校という所は融通が利かない所、そんな日数で調整ができるはずがない・・・だから、この話は消えることになるだろう、そう考えられたそうです。

 ところが、私が二日後くらいには、電話をいれ、「じゃあ、○月△日でお願いします!」と返事したもので、びっくりされたそうです。それまで、幾度となく学校の柔軟性に欠ける対応に悩まされていた野村さんにとって、こんな即効で決断してしまう学校があるというのは驚き以外の何物でもなかったそうです。

2 必要なお金をどうやって集める?

 さて、野村さんに来ていただけることが決まってから、謝礼をどうするかということを考えていなかったことに気がつきました。実は、学校というところは、自由に動かせるお金などほとんどないのです。

 この時、考えたのは、「学年音楽鑑賞&体験会」という名目で、児童からお金を徴収するという方法でした。学年の児童数は、約150名でしたので、200円ずつ集めれば、3万円になります。早速、校長先生に相談しますと、「まあ、200円なら大丈夫だろう。何度もやるのは困るが、一度なら、そういう方法を取ってもよいだろう」というお返事をいただくことができました。

 実は、このWSを皮切りに、次々とWSを実施していくことになるのですが、毎回、頭を悩ませたのが、アーティストへの謝礼をどうするかという問題でした。

 私の場合、悩み抜いた末、教育助成金に申請するという方法を取ることが多かったです。御存じない方も多いと思いますが、実は、学校教員が応募できる助成金申請はかなりの数があるのです。

 私が、実際に申請し、助成金を頂いた団体をいくつか紹介しておきます。

 

◆パナソニック教育財団   http://www.pef.or.jp/

◆ソニー教育財団      http://www.sony-ef.or.jp/

◆上月スポーツ・教育財団  http://www.kozuki.or.jp/

◆ちゅうでん教育振興財団  http://www.chuden-edu.or.jp/

◆日本学術振興会      http://www.jsps.go.jp/

◆安藤スポーツ・食文化振興財団  http://www.ando-zaidan.jp/html/top.html

 

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 単純にアーティストのWSという形では採択は難しく、申請書類を書くのは手間がかかったのですが、WSを教科学習とどう関連付けていくのかを考えていくのは、今になって思えば、とても良い勉強になったと思います。是非、先生方にもお薦めしたいです。

3 子ども達の度肝を抜いた鍵盤ハーモニカの演奏

 さて、野村誠さんの話に戻しますね。

 音楽鑑賞&体験講座当日、野村誠さん、林加奈さん、片岡祐介さんの三人の音楽家が来校。3万円しか謝礼が出せないことは、事前に連絡させていただいていたのですが、「そういう無茶で、楽しそうなことができる学校や先生を見たくて、みんなで来ました」とは、野村さんの弁。

 この音楽鑑賞&体験会が、その後の私の教師人生を大きく変えていくものになったのです。

一言で言うならば、「ああ、音楽って、その名の通り、音を楽しむものなんだあ・・・」ってことでした。

 野村さん達三人の音楽家が、この日、行ってくれたのは、以下の二つでした。

(1)鍵盤ハーモニカの演奏(野村さんは、Pブロッという鍵盤ハーモニカオーケストラも主宰されているのです)

(2)リズム遊び(野村さん達にリズム遊びを教えてもらい、子ども達の普段の遊びをリズムにして、みんなで遊びました)

 この鍵盤ハーモニカの演奏が凄かった。

 というのも、小学校現場で鍵盤ハーモニカは、低学年の児童が使用する楽器なのです。2年生までが、鍵盤ハーモニカで3年生からはリコーダーの練習という具合なのです。

 そんな具合なので、最初は「鍵盤ハーモニカの演奏か・・・」と思っていた子ども達は、その超越技巧ともいえる演奏に、ぶっとんだ!!!次第です(私も・・・です)。何せ、翌日から、鍵盤ハーモニカを持って来る子が出現しましたからねえ。

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4 再び経費の話

 私が、野村さんを学校にお招きしてから、10年以上の歳月が流れました。教育界にも様々な変遷がありました。

 現在は、学校現場で経費のことを考えなくても、アーティストを招いてワークショップを実現することができます。

 例えば、文部科学省は、平成22年度から「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」の実施を始めました。応募し、採択されれば、学校の経費負担なしでワークショップを実施できます。

 また、日本各地に、学校現場でのアーティストによるワークショップをコーディネートしてくれるNPOも出現しました。このサイトでコーディネートを書かれている「芸術家と子ども達」代表の堤康彦さんには、私自身何度も相談に乗っていただいたり、支援していただいたりしています。

 先に助成金のことを書きましたが、そういうことをしなくても実現可能な状況にあるということです。ただ、自分自身でいろんなことを考えながら、計画案を書いてみるという観点からすると助成金申請書を書いてみるというのは、やっぱりお薦めだと思います。

 何はともあれ、まず、一歩を踏み出してみて下さい。そこには、あなたが今まで知らなかった素敵な世界があるのですから。

 次号では、「職場を説得、納得させる方法」について紹介したいと思います。

糸井 登

立命館小学校 教諭

京都府の公立小学校教員としてアーティストを教室に招いた授業を総合的な学習の時間が始まる以前から実施。その実践が、新聞、TV等にも多数取り上げられる。2010年度から私立・立命館小学校に籍を移す。教育研究会「明日の教室」代表。「NPO法人・子どもとアーティストの出会い」理事。単著『社会科の基礎・基本ワークシート 小学校5年』(学事出版)、編著に『シリーズ 明日の教室1?5』(ぎょうせい)、監修に『DVD・小学校におけるコミュニケーション活動シリーズ』(ジャパンライム)がある。