【第1回】アーティストを学校に迎えると、何が起きるのか~

糸井 登
立命館小学校 教諭

1 はじめに

 私がアーティストを学校に迎えるようになって、10年ほどの年月が流れました。

 アーティストを迎える教師などと書くと、音楽やダンス、演劇などをかじっていた人間と思われるかもしれませんが、私自信はそういったものと全く無縁の人間でした。

 否、無縁どころか、苦手といっていいタイプの人間だったのです。

 では、そんな私が、なぜ、アーティストを迎えるようになったのか、そのあたりのことを、まず書いてみたいと思います。

2 変わってきた学校事情

 今から10年ほど前、学校教育にとって画期的な変革が起こりました。

 それは、「総合的な学習の時間」が創設されたことです。導入と同時に、ゆとり教育の批判が始まったのですが、教科書を使わない学習が画期的な内容であったことは疑う余地のないものだったと思います。

 しかし、現場は大混乱でした。何せ、「福祉」「環境」「情報」といった基本的なテーマはあったものの、学習内容については、地域や学校の実態に合わせて考えてようということになっていたのですから・・・。

 そんな中、学校現場では地域の方を学校に迎えて学習を進めるゲストティーチャー、活動の中から学びを深めていくワークショップという手法か学校の中にも取り入れられるようになっていきました。

 当時、学校の中で研究主任という立場にいた私は、このような先の見えない状況においては、指針を示してくれる「学校プロデューサー」ともいうべき人が必要だと考えました。そこで、当時、金城学院大学で教鞭をとられていた藤川大祐先生(現在は千葉大学教授)に連絡を取り、学校教育をサポートしていっていただくことにしました。

 批判の多い「総合的な学習」の時間ですが、導入されることによって、このような新たな動きが教育現場に起こったことは、もっと評価されてよいことではないかと考えています。

3 なぜ、アーティストだったのか

art1.jpg



 「学校プロデューサー」としてお迎えした藤川先生が開口一番言われたことは、「総合的な学習の時間は、子ども達がやりたこと、興味を持っていることをやってみて下さい。福祉だとか、環境だとか、そんなことはとりあえず考えなくてもいいです」ということでした。

 当時、私の担任する学級の子ども達が一番興味を示していたのは、歌でした。歌というより、モーニング娘に興味があったという方が正確かもしれません。歌を歌いながら踊るということが楽しくて仕方ないといった子ども達だったのです。

 そこで、早速、藤川先生に相談することにしました。
 子ども達は歌や踊りに興味を持っているが、担任である私はそういった指導というか、授業というか、そういったことは全くできないのですが・・・と。

 藤川先生は、一言、こう返されました。
「じゃあ、指導できる人をゲストティーチャーとしてお迎えして、一緒にやればいいじゃない」

 この一言が、私とアーティストを出会わせてくれたきっかけとなったのです。

4 学級の子ども達一人ひとりの輝き

art2.jpg



 
 次回に詳しく紹介しますが、アーティストを迎えて一緒に授業しようと決意した一年目、野村誠さん(音楽家)、穐吉敏子さん(ジャズピアニスト)、日比野克彦さん(現代美術家)、安那瑞穂さん(ダンサー)といった多くの方が学校に来て下さいました。

 アーティストの方々と出会う中で、子ども達は変わりました。
 当時、私がアーティストによる授業を見ていて、教師と違うなあと強く感じたのは、「引き出す」という感覚でした。学校現場で私達教師がやっていることは「教える」ということです。そのためにいろんな情報を子ども達にインプットさせていきます。ところが、アーティストの方々は、違いました。子ども達にアウトプットさせることに精力を費やされるのです。子ども達の中から、どれだけ引き出していくかということに全精力を費やされているように見えたのです。

 日常の教育活動の中で、ぼんやりしている子も、考えを引き出され、認めてもらうことで生き生きと活動していました。まさに、一人ひとりが主人公ともいうべき学校で目標にしている子ども達の姿がそこにはあったのです。

 更に、活動を繰り返す中で気づいたのは、子ども達のチームワークがよくなるということです。チームで一つのものを創っていく過程で、自然にコミュニケーションが発生します。算数のように、これは正解で、これは不正解というものはありません。自然に活発な討議が起こり、そして、どの子も達成感を得ることができるのです。

5 全てがうまくいったのか?

art3.jpg



 こんな風に書いていくと全てがうまくいったように思われるかもしれませんが、アーティストを迎えることで、いろんな問題が発生したことも否めません。

 次回は、具体的な事例を紹介しながら、どのような問題が発生し、どのようにそれを打破していったのかを書いてみたいと思います。

糸井 登

立命館小学校 教諭

京都府の公立小学校教員としてアーティストを教室に招いた授業を総合的な学習の時間が始まる以前から実施。その実践が、新聞、TV等にも多数取り上げられる。2010年度から私立・立命館小学校に籍を移す。教育研究会「明日の教室」代表。「NPO法人・子どもとアーティストの出会い」理事。単著『社会科の基礎・基本ワークシート 小学校5年』(学事出版)、編著に『シリーズ 明日の教室1?5』(ぎょうせい)、監修に『DVD・小学校におけるコミュニケーション活動シリーズ』(ジャパンライム)がある。