【第1回】アーティストと子どもをつなぐコーディネーター
~その役割と意義はどこにあるのか~~

堤 康彦
NPO法人芸術家と子どもたち

このたびの東北地方太平洋沖地震にて被災された地域の皆様方及び関係者の皆様方に心よりお見舞い申し上げます。避難所、あるいは被災された住宅や仮りの住まい等において、特に子どもたちが徐々にでも笑顔を取り戻してくれていると良いと思うのですが、彼らの心のことが大変気がかりです。家族と引き離されてしまった子どもたち、地震や津波の恐怖から心身に変調をきたしてしまっている子どもたち、生活が激変したことでストレスがたまっている子どもたち、など被災地の子どもたちは大変厳しい状況にあると思います。また、被災地でなくとも、日本中の子どもたちが今回の震災の強烈な映像等を見て、様々な意味で、不安定な状況にあると言っても良いのかもしれません。

さて、私は、過去11年余り、アーティストと子どもたちとの幸せな出会いの場をつくるべく活動してきました。現代の子どもたちは、物質的には豊かになりながらも、多かれ少なかれ個々様々な困難や課題を抱えて暮らしており、そんな子どもたちに、アーティストの力、アートの力を少なからず発揮できると考えてきたからです。しかし、今回の震災を目の当たりにして、果たして私には何ができるのか、アートにできることは何なのか、ということを改めて考えざるを得ません。アーティストと子どもたちとの出会いの場づくりをするコーディネーターとして、これから何をしていけばよいのか、真剣に考えなければいけなくなりました。これまで私がやってきたことの経験をどんな場面で活かすことができるのか、私の専門性や強みはどこにあり、それらは”震災後の”子どもたちに対してどんな形で有効に働くのか、、、悩み続けています。

では、本題です。アーティスト(アート)と子どもたち(学校)をつなぐコーディネーターについて、その役割や意義を少しお話したいと思います。

コーディネーターという言葉はいろいろな使われ方をする言葉ですが、ここで私が考えるコーディネーターには、2つの側面があると思います。ひとつは、文字通り、調整役ということ。そして、もうひとつ、コーディネーターには、大局的な見地から目標を達成すべくプロジェクトを進める、いわばプロデューサー的な側面があると思います。一般的に、アーティストと子どもたちをつなぐコーディネーターという場合、前者の、調整役、例えばアーティストと学校の先生の間に立って、諸々の調整をすることがその役割と考えられます。もちろん、その役割は大きいのですが、後者のプロデューサー的な役割も大事にしたいと思います。そこには、プロジェクトを継続的に推進するための資金調達も含まれますし、行政や他のNPOなど他組織との連携方法を模索することなども含まれると思います。

コーディネーターは、アーティストと子どもたちを、何のために出会わせるのか、という目的を常に意識する必要があります。その際、決して、独善的にはならず、アーティスト、子どもたち、学校の先生、保護者など、それぞれの立場のニーズを把握することが大切です。ニーズを把握するために情報を集めるわけですが、最も信頼できる情報は、やはり自分の耳で各関係者に話を聞く、自分の目で実際に現場を見る、ことだと思います。そのうえで、自分が共感する意見や考え方を見つけ出し、プロジェクトの目的を明確にしていきます。さらに、プロジェクトを推進する時間の経過に沿って、目的を随時更新していくことも大切なことだと思います。

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 ニーズを把握することともに、コーディネーターにとって大事なのは、自分の強みは何なのか、を把握することです。例えば、たくさんの面白いアーティストとのネットワークを持っていることが強みなのか、アーティストと一緒に子どもたちの中に入ってワークショップのファシリテーションをすることが得意なのか、あるいは、行政や企業とのネットワークを持っていることなのか、など、それぞれ強みがあると思います。それらの強みを最大限に発揮して、目標を達成することが肝要です。

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 全体を俯瞰する視点を持ちつつ、各現場での細やかな調整役を果たしていくこと、その両方を間断なく続けることがコーディネーターの役割と言えるでしょう。プロジェクトの目指す方向・目標のイメージを持つこと、そして活動しながら常に考えること、イメージを膨らませていくこと、さらにイメージを変化させていくこと、そんなことをコーディネーターは、子どもたちとアーティストと学校の先生たちとの間に立ちながら考えていくことが必要だと思います。

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 さて、未曾有の大きな災害となった今回の震災をうけて、被災地の子どもたちや不安を抱えた子どもたちに対して、何ができるのか…、アーティストと子どもをつなぐコーディネーターという立場の私がいま悩んでしまうのは、対象となるような子どもたちが何を必要としているのか、現場はどのような状況にあるのか、自分の強みを現場にどのように活かすことができるのか、そのようなことがまだ分かっていないからだと思います。いま現在は歯がゆい思いをしていますが、今後なんとか私なりにできることを考えて、小さなことから始めたいと思います。そして、継続的に活動ができるような仕組みを考えて、”震災後の子どもたち”が、いきいきと自分を表現し、他者とつながっていく機会を提供するようなスキームを長期的展望のもと、つくっていけたら良いと思います。

堤 康彦

NPO法人芸術家と子どもたち

1965年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。87?97年、東京ガス?に勤務。その間に超高層ビルの建設運営業務に携わり、そこのホールやギャラリーで「パークタワー・アートプログラム」として、音楽やダンスの舞台公演や美術展覧会を数多くプロデュース。若手振付家が新作を競演する企画「ネクストダンスフェスティバル」は、97年度のメセナ大賞普及賞を受賞。その後、芸術普及NPO「アーツフォーラム・ジャパン」や大阪府立大型児童館「ビッグバン」の勤務を経て、99年秋からエイジアス(ASIAS:Artist’s Studio In A School)を企画構想、00年7月からスタートさせる。活動の拡大に伴い、01年7月「特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち」を設立、代表を務める。03年3月、エイジアスを中心とする団体の活動が認められ、「アサヒビール芸術賞」を受賞。04年8月からは、東京都豊島区の廃校となった中学校(にしすがも創造舎)に拠点を移し、区との協働のもと、地域向けプロジェクト「ACTION!」を始動。学校教育と地域(まち)という2つのフィールドで子どもに関わる事業を展開している。著書に、「子どもたちの想像力を育む アート教育の思想と実践」(共著/佐藤学・今井康雄編/東京大学出版会)、「子どもたちのコミュニケーションを育てる」(共著/秋田喜代美編/教育開発研究所・教職研修増刊)。